2003 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
03J10727
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
西野 正巳 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 中東 / イスラム / 原理主義 / アラブ / 政治思想 / イスラム主義 |
Research Abstract |
現代イスラーム世界におけるイスラーム主義の再定義に向けて、20世紀エジプト最大のイスラーム主義思想家サイイド・クトゥブの思想研究を行った。クトゥブの晩年における思想がイスラーム主義思想であることに異論を挟む者はないが、一方その思想をどう位置付けるかについては、議論の余地が残っていた。通説ではクトゥブ思想はジハード団へと繋がる急進主義思想の源流とされており、この理解では、クトゥブ思想は現体制の打倒を通じて理想的イスラーム社会の樹立を目指す、行動主義的革命思想として定義されていた。しかし一次資料を精査した結果、クトゥブ思想は、社会問題の外部への責任転嫁や自己正当化、現実逃避といった、行動主義とは対極に位置する要素も色濃く帯びていることが判明した。即ち、西洋近代の発展を"中世イスラーム社会における先進文明を学習した結果"として認識する一方で、近代におけるイスラーム社会の停滞については"中世以来の十字軍による侵略と陰謀の帰結"と捉え、さらに、"なぜイスラーム世界がその侵略や陰謀に屈したのか"については決して語ろうとしないクトゥブの思想は、社会問題に正面から取り組むことを忌避する、行動主義者と対極にある人々にも受け入れられていたその結果、今日、エジプトなどのイスラーム世界各地でクトゥブの著作が広く読まれている現状は、"イスラーム主義の普及"とみなすことは可能でも、単に"急進主義・行動主義の普及"とみなすべきではないことが明らかとなった。
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