2003 Fiscal Year Annual Research Report
ピエール・コルネイユの劇構造に弁論術が及ぼした影響
Project/Area Number |
03J10729
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
千川 哲生 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | フランス文学 / 弁論術 / 十七世紀フランス演劇 / ピエール・コルネイユ / 演劇理論 |
Research Abstract |
今年度は、弁論術が、ルネサンス期から十七世紀後半にかけて形成された演劇理論に影響を及ぼした過程を、文献調査を通じて示すという所期の目的を達成した。具体的には、ドービニャック師とラ・メナルディエールの詩学において等しく、劇詩の主題に応じた弁論術の使用が不可欠とされていることが判明した。これと平行して、ピエール・ニコルが、演劇と弁論術の密接な関係に焦点を当てて道徳的に演劇を断罪したこと及び、韻文劇における弁論術の実践が逆に、ギヨーム・デュ・ヴェールやニコラ・コーサンの散文理論の洗練を促したことを成果として得た。 他方、ピエール・コルネイユと同時代の劇作家たちが、作劇法に不可欠な要素として弁論術を実践したという仮説を、五十以上の演劇作品をデータベース化して分析することで証明した。コルネイユと競合関係にあった劇作家ジャン・ラシーヌの悲劇『アンドロマック』には、狂気に陥った人物が他者とのコミュニケーションを破綻させる場面がある。この場面においてさえ、ラシーヌは、古典古代及び十七世紀フランスの演劇作品を参考として、劇構成との関連を考慮しながら弁論術を利用したことを論証した。 以上の成果を基盤として、コルネイユの作劇法を、作品分析から解明する作業に着手した。手始めに、殉教悲劇である『ポリュークト』において、他者を説得する技法、すなわち弁論術が劇構成の核を成していることを示した。また、ある台詞は、劇構成に寄与すると同時に、観客を感動させ、思索に誘う機能も有する。この観点から、『ポリュークト』を構築する様々な言説が、複雑な道徳的、宗教的メッセージを観客に投げかけ、多様な解釈の試みに向かわせることを論じた。これらの研究成果を、三本の論文の中で発表した(内一本は印刷中)。
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Research Products
(3 results)
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[Publications] 千川 哲生: "オレスト狂乱:ラシーヌ『アンドロマック』結末の一解釈"エイコス(17世紀仏演劇研究会). 15. 19-43 (2003)
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[Publications] 千川 哲生: "演劇と劇作家-ピエール・ニコルの『演劇論』"仏語仏文学研究(東京大学仏語仏文学研究会). 27. 5-27 (2003)
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[Publications] 千川 哲生: "説得の試みと神の礼賛-コルネイユ『ポリュークト』における弁論術"エイコス(17世紀仏演劇研究会). 16(印刷中). (2004)