2003 Fiscal Year Annual Research Report
英国喜劇小説史の再検討:アントニー・ポウエルを軸として
Project/Area Number |
03J10738
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
小山 太一 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 英文学 / 小説 / 喜劇 / アントニー・ポウエル |
Research Abstract |
本年度は、アントニー・ポウエルの全作品を再読し、かつ関係の資料を収集・検討したのち、1930年代におけるポウエルの喜劇的傾向を帯びた作品群の分析・評価作業を行った。その中で得られた主たる知見は、(a)それらがポウエルの代表作、戦後1950年から1975年にかけて書き継がれた、英国現代史の激動を「喜劇」というキーワードで捉えようとする連作A Dance to the Music of Timeへの助走ないし習作という位置づけのできるものであること、(b)それらの作品群が、いずれも、英国の喜劇小説(特に、フィールディングからオースティン、サッカレー、メレディスと受け継がれてゆく社会風習喜劇[コメディ・オブ・マナーズ])の伝統的手法を受け継ぎつつ、そうした伝統がよりどころとしていた社会的・文学的なからくりがもはや無効化しつつあることを暗に指摘し、伝統への反逆を萌芽として内包するものであること、(c)かかる喜劇小説の伝統がよりどころとしている社会的・文学的からくりとは、そうした伝統的喜劇小説が「笑い」の偽装のもとに中産階級(まさにそうした小説を享受・消費する社会的階層)の社会的サバイバル方法を指南するものであり、中産階級を構成する人々が取るべき社会的ふるまいをプラクティカルに規定するものであったこと である。現在、その知見をまとめた論文を執筆中であるが、ポウエルとは百八十度対照的な手法で喜劇小説の伝統に反抗し、独自の境地を拓いていったポウエルの友人小説家イーヴリン・ウォーが本研究に不可欠な参照点であることが執筆過程で分かった。裏面に記した発表論文「イーヴリン・ウォーとコメディの空間」は、ウォーに関する本研究者の現時点での考察を簡潔にまとめたものである。
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Research Products
(1 results)