2003 Fiscal Year Annual Research Report
コミュニティにおける技術選択,学習と教育投資に関する分析
Project/Area Number |
03J10763
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
小野 裕介 東京大学, 大学院・経済学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 共同体 / 技術伝播 / 経験による学習 / 識字教育 / 情報フロー / 途上国経済 / 教育水準の格差 / 動学的外部性 |
Research Abstract |
本年度は、研究課題の基礎となるようなモデルの定式化がなされ、その枠組で、いくつかの政策的に有効であろう含意が導出された。分析されたのは、共同体における初期の教育水準の分布が、人々の技術選択行動とどのような関係にあるのかについてである。そうした分析の結果、教育水準に関して、どのような外部性が、どのような状況で、どのような理由から生じるのかが示された。こうした分析を、教育投資の価値という方向に一歩すすめれば、教育に関する補完性という論点へと通じる。 分析結果より導出された含意は以下のようなものである。教育水準の高い人に対する重点的な教育政策は、教育水準の格差を広げるものの、正の外部性があるので有効な政策でありうる。その場合は、教育水準の高い人を起点に技術の進歩が起こり、教育水準の低い人もそれに追随する、というある種の技術伝播が起こる。ただし、もともとの教育格差が大きい場合には有効な政策たり得ない。その理由は、教育水準の低い人は、新しい技術を採用していくことが負担になる場合や、古い技術にとり残される場合があるからである。 教育水準の低い人に対して重点的な教育政策を行い教育水準の格差をなくすことは、双方にとって望ましくなりうる。その理由は、教育水準の高い人は、教育水準の格差が大きい場合には、知識に頼って技術発展を孤独に先導していかざるを得ないが、教育水準の格差がなくなれば、お互いにそこそこ高い同じ技術水準に固定して、お互いの様子を観察することで経験を蓄積する、というバランスのよい行動をとれるようになるからである。 こうした研究の特徴は、教育の機能を情報処埋という観点からとらえ、教育の水準が変わることの効果を、情報を通じた他者との相互作用を考慮しながら分析することにある。本研究によって得られた教育に対するこうした視点を、医師に対するコミュニケーション教育へと展開した研究成果も現在うまれつつある。そのための基礎的な試行としてなされた研究成果を、2003年6月にサンフランシスコで行なわれた、International Health Economics Associationの4th World Congressにおいて、"When and Why do Patients Complain?:A Game Theoretic Approach"という題目で、発表した。
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