2003 Fiscal Year Annual Research Report
タイとマレーシアにおけるマクロ経済政策と代議制の政治学
Project/Area Number |
03J10866
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
鷲田 任邦 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 財政 / 政党 / タイ:マレーシア / 政治的財政循環 / ポークバレル |
Research Abstract |
本研究の目的は、財政政策と政党組織との相補関係を明らかにすることである(政党組織のあり方は派閥中心か政党中心かという民主的代表のあり方を大きく規定する)。本年度は、国内で入手可能な資料の分析と並行して、統計分析と現地調査(主に財政データと政党史料の収集と分析)を行った。作業によって明らかにされた主な成果は、以下の諸点である。 マレーシアに関しては、70年代から近年までのデータに基づく統計分析により、政治的財政循環(支出増加率を選挙前に上げ選挙後に下げること)の存在を確認した(特に選挙前の上昇)。特に開発支出(中でも支持基盤に密接に関連する農業関連支出に加え商工業関連支出)に顕著であった。結果の安定性は、統計検定によっても裏付けられた。また、一般的に重視されてきた党内選挙は少なくとも政治的財政循環には大きな影響を与えていないことや、政治的財政循環が顕著にみられるようになったのは70年代以降であることもわかった。政治的財政循環とUMNOの集権性とは相補関係にあると考えられる(つまり集権的なUMNOが選挙リスクを内部化していると同時に、選挙循環はその集権性を支えている)。そもそも独立期には地方組織の寄せ集めであったUMNOが集権化していく上では、財政への政治介入の確立と財政規模の増大が重要な役割を果たした(60年代は集権化の過渡期であった)。党中央が政治的資源を独占することで、党規律が高まったと考えられる。 一方、タイ研究においては、政党の弱さ(派閥の寄せ集め、鞍替えの多さ、地方組織化の弱さ)が問題視され、選挙制度や政治文化、軍の介入等が重視されてきたが、党中央が財政への政治的介入に失敗したこと(特にタンボン計画の挫折とプレーム政権下の財政への介入障壁)も重要であったように思われる。マクロの政治的財政循環よりもミクロのばら撒きが顕著なことと、政党の弱さは相補関係にある。
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