2004 Fiscal Year Annual Research Report
タイとマレーシアにおけるマクロ経済政策の決定と「民主主義」の関係
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03J10866
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
鷲田 任邦 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | マレーシア / 財政 / 補助金 / 選挙 |
Research Abstract |
現段階での焦点はマレーシアの財政政策と選挙政治の関係にある。本研究では、独立期から常に政権を担いつづけている与党連合が、柔軟に選挙結果に対応してきたことが、(1969年総選挙を例外として)安定多数を維持することができた要因のひとつであると考え、選挙政治と財政政策の関連を分析してきた。 まず、連邦レベルのマレーシアの財政政策に関する既存研究では、強権的側面やレントシーキングの側面にのみ焦点が当てられてきた。それに対して、昨年度は、主にマレーシアの機能別・省庁別の財政支出を分析することで、政治的財政循環のパターンを明らかにすると同時に、制度的・歴史的背景を明らかにした。本年度は、政治的財政循環の、より詳細な事業別分析を進め、選挙前後に増減する大規模な支出項目を特定した。道路や橋などの票買収のためのものに加え、公企業の株購入などといった選挙資金獲得という2つの類型の支出がみられた。 また、中央レベルだけでなく、財政資源の地域別配分に関する研究として、州レベル(さらに試論的に選挙区レベル)の財政データの収集と分析を行ってきた。州レベルデータは、各州に足を運ぶことで、これまでの研究では困難だった包括的なデータセットの作成が可能となった。既存研究では不完全なデータと印象論に基づき、首相の強い影響に加えて、野党支持者への財政資源からの懲罰的疎外という「賞罰」の側面にのみが強調される傾向にあった。それに対し本研究は、既存研究がしてこなかった体系的なデータ収集と統計分析というアプローチによって、これまで既存研究で言われてきたことに加え、選挙競争が激しい地域への「選挙的投資」を行っていることを新たに明らかにした。
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