2003 Fiscal Year Annual Research Report
シカの採食がもたらす環境改変の連鎖とそれが生態系に及ぼす影響
Project/Area Number |
03J11350
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
高田 まゆら 東京大学, 大学院・農学生命科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | ニホンジカ / 植物群落 / ecosystem engineering / 植食者 |
Research Abstract |
今年度は、シカの採食とコハナバチの営巣場所との関係を調べるため、以下の野外観察と野外実験を行った。草地群落に設置した観察地内において、シカが採食した場所としなかった場所を記録し、この2つの場所間でコハナバチの営巣密度を比較した。また、観察地の付近にシカの除去区を設置し、シカの採食をまねた植物の刈り取りを行った場所と対照区で、コハナバチの営巣数を比較した。 野外観察の結果、シカに採食されたプロットは、されなかったプロットに比べ、植物の枯死部の被度は低く、裸地の被度は高く、植物の被度は低かった。またコハナバチの営巣数は、シカの採食が及んだプロットで多かった。シカの採食が及んだプロットでは、巣穴間の距離が3〜4cmしか離れていないほど非常に高密度で営巣していた。このことから、コハナバチはシカの採食が及んだ場所で集中的に営巣していると考えることができる。一方この結果は、もともと観察地にあった環境の異質性を反映して出たとも考えられる。しかし野外実験においても植物の刈り取りを行ったプロットで、植物枯死部の被度は低く、裸地の被度は高く、植物の被度は低く、そしてコハナバチの営巣数も多いという野外観察と同様の結果が得られた。以上の結果から、調査地の草地群落では、シカの採食が及んだ場所においてコハナバチが高密度で営巣することが明らかになった。 コハナバチのような土中営巣性のハナバチ類は、土が固くしまっており、草が地表を隠していない裸地を営巣場所としており、非常に限られた場所でしか営巣することができない。またシカの採食が及んだ場所で、コハナバチは非常に高密度に営巣したことから、営巣場所がコハナバチ個体群の制限要因になっている可能性は高い。その場合、調査地において、シカの採食は、営巣場所を増加させることでコハナバチ個体群に正の影響を与えていると考えられる。
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