Research Abstract |
"やることはなんでも完ぺきにやろう"とする完全主義は,生活満足感,自尊感情を高める一方で,抑うつ,不安,摂食障害などの精神病理や,心身症などのネガティブな結果をもたらす可能性を持ち合わせている.しかし,これまでの完全主義研究は,個人のなかで安定した特性である,"パーソナリティ"の側面のみを扱ってきた.そのため,完全主義を信念として持つものがどのような状況において,適応的あるいは不適応的な結果を体験するのか明らかにされていない.特に本年では,どのような気質が自己志向的完全主義を発達させるのかを明らかにしつつ,自己志向的完全主義の学習パターンを検討した. 日本版の自己志向的完全主義尺度(大谷・桜井,1995)と同時に,Cloningerの気質を測定するTemperament Character Inventory(木島ら,2000)を大学生428人に実施した.調査実施に際しては,インフォームドコンセントをとり,調査についての説明と参加への同意を確認した. その結果,自己志向的完全主義は以下の2つの気質,つまり新規性と負の結びつき,固執と正の結びつきを持つことが分かった。気質とは物事を認知したり習慣を学習する際に,本人の思考とは無関係に影響を与えるものであり,遺伝性があり,幼児の頃から顕れることを考慮すると,この2つの気質の組み合わせが自己志向的完全主義を発達させる可能性が示唆された.またこの気質の組み合わせから自己志向的完全主義の学習パターンを考察すると,報酬が与えられた行動を持続するが,その行動がもはや報酬を与えずに罰や無報酬を導くようになっても,行動の修正が難しいということが明らかとなった.つまり自己志向的完全主義者は強化が安定した場面でのみ適応性を発揮することが明らかとなった.この研究を記載した論文はPersonality and Individual Differencesに掲載された.
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