2004 Fiscal Year Annual Research Report
自律進化する食物網モデルによる生態系の進化動態解析
Project/Area Number |
03J11941
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
伊藤 洋 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 食物網 / 進化動態 / 種分化 / 適応動態 / 捕食被食相互作用 / 進化的分岐現象 / 個体ベースモデル / 資源競争 |
Research Abstract |
昨年度までの研究により,本研究の食物網モデルにみられる進化動態の巨視的な制約と,種レベルの動態の性質について解明を進めた. 本年度は,食物網モデルの本質的な部分を一般化するとともに,種分化現象の解析的な条件を得た. (1)本研究の食物網モデルは全ての生物で栄養効率や,捕食回避能力,発生学的制約を同一なものと仮定していたが,これらは実際には生物の種類によって大きく異なり,これが進化動態に与える影響は無視できない.そこで,これらの差異の記述も含めた形で任意の形質次元での,食物網モデルの表式を構築した. (2)また,本モデルでは多次元の形質空間において種分化が起こるが,従来の種分化理論は1次元の形質空間しか扱わないので,多次元の形質空間における種分化条件を解析的に導いた.この条件は適応度地形の1次と2次の局所地形のみに依存するので,捕食・被食相互作用だけでなく,資源競争や共生など,原理的にはあらゆる生態的相互作用に適用することができる.さらに,多次元の形質空間では,形質間の進化速度の違いが再帰的な適応放散と絶滅を促すことが示された. (3)(2)で得た解析的条件により,1つの種が種分化を繰り返し複雑な食物網を生成するまでの一連の過程を,ほぼ全て数学的に説明することに成功した. (4)(3)では資源利用パターンの幅を固定したが,資源利用パターンの位置と幅を両方とも進化可能であると想定した場合についても解析を行った.その結果,種分化の条件は,資源分布と資源利用パターンの相対関係である"利用可能な資源分布"の分散,歪度,尖度,すなわち2次,3次,4次のモーメントによって決定されることが示された.この結果は特定の資源分布や資源利用パターン及び機能の反応に依存しない一般的な性質である. 以上の成果は,食物網の進化動態を巨視的・微視的の両面で統一的に説明するための足掛かりを与える.
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