2004 Fiscal Year Annual Research Report
東西赤道太平洋海底コアのバイオマーカー・同位体地球化学プロキシーによる古気候復元
Project/Area Number |
03J50041
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
堀川 恵司 北海道大学, 大学院・地球環境科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 古海洋変動 / 西赤道太平洋 / 窒素固定 / 堆積物 / 安定同位体比 / スールー海 |
Research Abstract |
多くの海洋は硝酸に枯渇した貧栄養塩海域であり,硝酸の供給不足によって基礎生産が抑えられている.海洋における硝酸量は,主に窒素固定や脱窒によって支配されており,過去それらのフラックスが大きく変化し海洋の硝酸態窒素量や生物ポンプにも影響を及ぼしていた可能性がある.本研究では,窒素固定海域西赤道太平洋スールー海の窒素固定の変遷を明らかにし,海洋窒素循環における窒素固定海域の役割と炭素循環への影響について考察している. 対象とした柱状堆積物は,過去8.5万年間に形成された堆積物であり,堆積物中の有機物の大半は海起源の有機物であった.堆積物中の窒素同位体比は,3.2-6.1‰の範囲で変化し氷期-間氷期サイクルに対応する明瞭な傾向は見られなかったが,平均値は4.8‰であり,太平洋中層水の硝酸のδ^<15>N(5.5-6.1‰)よりも軽い値であった.また,最終氷期よりもステージ3の5-3.5万年前に最も軽くなっていた. 現在のスールー海は,南シナ海起源の低塩分表層水の流入によって表層が成層化しており,表層の硝酸が慢性的に欠乏している.そのような状況では表層で硝酸の同位体分別が起こらないので,有光層から沈降してくる粒子状有機物のδ^<15>Nは中深層の硝酸のδ^<15>Nと等しくなると予想される.しかし,スールー海の場合,水深150mの粒子状有機物のδ^<15>Nは,4.3-5.9‰であった.同サイトでは,窒素固定を行うシアノバクテリアが,観察されていることから,沈降粒子の低いδ^<15>Nは窒素固定の影響を反映していると解釈される.このような構図が過去のスールー海でも起こっていたとすると,δ^<15>Nが4.5‰まで低下するステージ3は,窒素固定の影響が強かった時代とみる事ができる.これまで,窒素固定の分布やその効率は,ダスト起源の鉄の量に律速されていると考えられていたが,スールー海ではダスト量が最も多かったと思われる最終氷期よりもステージ3の方が窒素固定の影響が強かった.その原因としては,同時期,脱窒域で脱窒フラックスが増大しており,海洋の硝酸態窒素量が減少傾向にあったことから,スールー海では硝酸の減少に対応して窒素固定が強化されていたためと考える事ができる.
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