2004 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
03J50581
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
廣川 直幸 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 西洋古典 / ホメーロス / 賛歌 |
Research Abstract |
今年度は、昨年度に引き続き、『イーリアス』のテクスト批判にまつわる問題についての研究をおこなった。具体的に対象にしたのは、現存写本中には残っていないが、比較言語学的見地から再建可能な形態の採否の問題である。この問題を取り上げた理由は、テクスト批判の中で最も困難な「校訂」という手続きの実質を知ることにある。結論を先に述べるならば、最新にして最良とされるウエスト校訂『イーリアス』にすら、言語学的再建形の採否に関して、明確な基準が設定されていないということが明らかになった。聖典として伝承され、驚くほど安定したテクストを有するというヴェーダ文献と比べると、ギリシア語文献は不安定である。両文献の語と語との厳密な比較を模索する前に、ギリシア語文献に如何なる操作が加えられているのかを知る必要があろう。 また、昨年夏に、W.D.FurleyとJ.M.Bremerによる大著Greek Hymnsの書評を執筆した。難解な著作ではあったが、普段扱うことの少ない碑文資料中の讃歌を読むことができたのは、非常に有益であった。その際に、文学テクストに顕著に現れる三部構成(神への呼びかけ、回想、祈願)が、碑文資料にも概ね当てはまるということが確認できた。以上のことから、インドとギリシアの讃歌を比較する場合、特異な語と語を比較するよりも、讃歌の構造のパターンを観察し比較することを主としたほうが、一定の成果を得やすいのではないかと考えられる。『リグ・ヴェーダ』の中に三部構成の讃歌は確認できるのだが、主流とはいえない。このことを考慮しながら、ギリシア讃歌の基本である三部構成は如何なる起源に由来するのかを問うことにする。
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Research Products
(1 results)