2003 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
03J50581
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
廣川 直幸 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
|
Keywords | 西洋古典学 / ホメーロス / イーリアス / 賛歌 |
Research Abstract |
本年度は、『イーリアス』のテクスト上の問題点を、紀元前アレクサンドレイアの学者および現代の校訂家が、どのように処理しているのかを、古代アレクサンドレイア文献学の主要操作概念であるアナロギアの観点から研究した。研究計画書において述べたように、今年度は古代ギリシアの讃歌の概観を行い、『リグ・ヴェーダ』との比較に備える予定であったが、開始早々、ギリシア語テクストの本文が版本によって大きく異なるということに注意が向くようになり、それらの差異が生じた理由を知ることなくしては、厳密な言語上の比較は覚束ないということを認識するに到った。そこで、指導教授との話し合いのすえ、ギリシアの讃歌と『リグ・ヴェーダ』との比較を急ぐよりは、その前段階として、まずギリシア古典のテクストについての知識を獲得するほうがよいとの結論に達した。 そこで、祈願の讃歌の例を多く含み、なおかつ古代から現代にかけての研究成果が質の高い校訂本によって利用できる『イーリアス』を一つの観点を設けて調査した。具体的には、古代人の著した『イーリアス』註釈におけるアナロギアという言葉の全用例を調べ、その概念を用いて古代文献学者が『イーリアス』のテクストにいかなる操作を加えているのかを、またそれらの成果を現代の校訂家がどのように扱っているのかを研究した。その結果明らかになったのは、『イーリアス』のテクストは、アクセント記号に到るまで、何らかの証拠および理論に基づいて再構成されたものであるということである。ギリシア古典のテクストは本文批判を経て構成されたものであり、どれ一つオリジナルではない。そこからすると、ギリシア文献学の中で、本文批判というのは最も重要なジャンルであるが、国内の西洋古典研究においては、ほとんど取り組まれていないのが実情である。その欠を少しでも補うためにも、しばらく本文批判の実態を研究しなければならないと思われる。
|
Research Products
(1 results)