2003 Fiscal Year Annual Research Report
グローバル化が南北経済の雇用、賃金格差、交易条件に及ぼす影響のマクロ経済分析
Project/Area Number |
03J52821
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
阿部 太郎 神戸大学, 大学院・経済学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 南北経済 / 労使交渉 / 経済成長 / 資本自由化 / 多国籍企業 / 所得分配 / ポスト・ケインジアン |
Research Abstract |
「南北経済における労使交渉と成長-資本自由化を考慮して-」 先進国(北)途上国(南)間の資本移動が自由な下で、北の労働組合の交渉力増大が南北の成長に与える影響について、南北モデルを構築して理論分析を行った。分析の特徴は、北の労働組合の交渉力増大を労組の賃金調整速度増大に限定したこと、所得分配に着目したこと、南北の利潤率格差に反応する多国籍企業を想定したことである。 主な結論は以下の通りである。 北の労組の交渉力増大が各部門の成長へ与える影響は北の企業の価格調整速度に依存する。その調整速度が速い場合は、北の交渉力の増大は北の稼働率上昇と南の交易条件下落をもたらすので、外国部門の成長率を下落させ、南が所有する部門の成長率を増大させる。この時、北の完全稼働時の利潤率下落効果が大きくなければ、北の成長率は増加する。その際、北の投資の南北の利潤率格差に対する感応度が高ければ高いほどこの影響が大きい。 一方、その調整速度が遅い場合は、北の交渉力の増大は南の交易条件を上昇させ、それは南の国際収支制約をきつくするので、南の輸入需要は減少する。したがって、北の稼働率への影響は確定しない。この時、南北の利潤率は相対的に南に有利になるので、北の投資の利潤率格差感応度が高ければ高いほど、北の成長率が減少しやすく、外国部門の成長率が増加しやすい。 なお、本研究は以下のような制約下にあることに留意する必要がある。それは、労組の交渉力増大を主に賃金調整速度の増大としてのみ考えていること、所得分配への影響に限った議論であること、資本財を生産するような南を考慮に入れていないこと、南の債務を無視していることである。 このような限界があるにも関わらず、本研究は北の労組の交渉力増大が南北の成長に与える影響について、所得分配と多国籍企業を考慮に入れた分析を行ったという点で新しいものであるといえる。
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