2004 Fiscal Year Annual Research Report
銭屋五兵衛をめぐる歴史叙述と歴史意識-地域社会の歴史意識と共同性についての考察-
Project/Area Number |
03J53231
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Research Institution | Kanagawa University |
Principal Investigator |
高野 宏康 神奈川大学, 大学院・歴史民俗資料学研究科, 特別研究員(DC1
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Keywords | 近・現代史 / 史料学 / 地域性 / 民俗学 / 文化人類学 |
Research Abstract |
本年度は、前年度に取り組んだ方法論ついての基礎的な考察と、文献収集を中心とした予備的なフィールド調査の成果を踏まえた上でより具体的な考察を行った。研究実績の概要は以下の通りである。 1.方法論・理論的な問題 銭屋五兵衛をめぐる歴史意識について問題となっていた、(1)虚像と実像の問題、(2)歴史意識の分析方法について、近年の諸学問の成果を踏まえた上で独自の考察を行った。従来の歴史学では客観的事実の確定を目的とした史実考証が中心となっており、うわさ等の口頭伝承や非合理的な事象は虚像として排除される傾向が強かった。同様に、客観的把握が困難な歴史意識も学問的に分析されることはほとんどなかった。今回の考察では、その原因が事実概念の相違にあると考え、歴史研究における事実の概念を集合的事実に拡張することを提起した。また、これまで曖昧に「意識」と表現されてきた歴史意識を、心性、感性、言説、表象などの分析概念に基づいてより精緻な検討を加えた。これらの作業により、虚像と実像といった二項対立に陥らない分析が可能となったと言える。以上の成果は、学内研究会で二回の報告を行い(「歴史の事実、伝承の事実」、「心性/感性の資料化について」)、ある程度支持を得ることができた。内容を論文化する作業はほぼ完了しており、近日中に学会誌に投稿予定である。 2.フィールド調査 金沢とその周辺地域における銭屋五兵衛をめぐる歴史意識の受容について、文献調査および聞き取り調査を精力的に行った。その結果、永井柳太郎ら地元の政治家、安宅弥吉ら経済人を始めとして、明治初期から金沢の裏日本化を憂慮する人々に多大な影響を与えていたことが明らかになった。瀬戸内海および下北半島周辺の北前船寄港地では石碑等の史跡が確認でき、銭屋五兵衛の活動範囲の実態をある程度明らかにすることができた。以上の成果についても、近日中に論文として学会誌に投稿予定である。
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