Research Abstract |
【はじめに】 本年度はつごう4件の転落事故について調査を実施したが,うち2件について詳細な分析ができた。この2件は事故者が残存視力を有するという共通点である。以下に概要を記す。 【事例1】 事故者は40才(当時)の男性で,視力は右光覚,左0.01であった。事故は1985年6月29日午前8時頃,JR秋葉原駅3番線(山手線外回り)で発生した。当駅山手線ホームへ到着後,下車駅での利便を考え,ホームを長軸方向へ移動した。事故者は普段,白杖はシンボルとしてのみ保持し,残存視力を頼りにホーム縁端部を手がかりにして移動していたが,あいにく当日は雨天で,十分な照度が得られず,なかなか縁端部を発見できなかった。そして縁端部をさがすべく,さらにそちらに接近し,そのまま左足から転落した。 【事例2】 事故者は45才(当時)の女性で,視力は両眼で0.05〜0.06程度あった。普段の単独行動には大きな支障がなかったため歩行訓練は受けておらず,白杖もシンボルとしてのみ保持していた。事故は10年ほど前のある日,午前10時頃,京王井の頭線下北沢駅1番線で発生した。事故者が当ホームに到着した時,既に電車が入線し,まもなく発車するところであった。事故者は間に合わないと思い,次の電車にすることを決めて,ホーム上を長軸方向に移動していた。ところが後ろから女性客が駆けてきて,その電車に乗車した。事故者はそれを察知して自分も乗れると判断し,急いで乗車しようとした。ところが事故者がドアと思ったところは実は車両間の連結部であった。連結部の幅(60cm)はドア部(130cm)より狭いのであるが,事故者はこのときドアが閉まりかけていると判断し,乗り込もうとしてそのまま路線上に転落した。 【対策】 視覚障害者は,わずかな程度でも視力が残っていれば,白杖からの触覚情報に頼らず,視覚情報に依存して行動するのが一般的である。ところが,慣れた駅においても,事例Iにみられるような普段とは違った光環境に出くわした場合や,事例IIのような限られた時間内に迅速な行動を求められる場合には,残存視力は必ずしも正確な情報を与えないことに注意を払う必要がある。適切な照明や連結部遮蔽板などのハード的な改善に加え,要所では視覚のみに頼らず白杖によってきちんと安全を確認するという手続きが障害者側にも必要であろう。
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