Research Abstract |
本研究では雑種成犬を用いて,70%領域の肝葉に対して血流の緩徐遮断(70%領域門脈枝結紮と同部位の肝動脈枝の緩徐遮断)を行い,肝機能,肝予備能の推移,肝再生状況,遮断葉,非遮断葉における組織学的所見,肝組織血流,肝細胞のviabilityについて検討した.この際に対照として70%肝切除群(N=10),70%門脈枝結紮群(N=15),コントロール群(N=6)をおき比較検討した結果,緩徐遮断群(N=13)の侵襲は,ほぼ70%肝切除群と門脈枝結紮群の中間に位置すると考えられた.GOT,GPTの推移や肝組織血流の変化より,血流遮断効果も高く,組織学的にも緩徐遮断群においてより高度の萎縮が認められた.ICGRmaxの推移からみると緩徐遮断群では術後5,6,8週で肝切除,門脈枝結紮群と比較して,有意差はみられないものの,肝予備能がむしろ上昇傾向を示した点が注目された.肝細胞viabilityは約3gの肝組織より分離肝細胞を調製し,培養系を用いず調製直後にMTT法によりSD(succinyl dehydrogenase)活性を測定し判定しているが,我々の方法は採取から判定まで約2時間と短時間であり培養系を介さないので,よりin situでの状態を反映していると考えられる.SD活性からみると肝切除,コントロール群では前後(手術時,8週後)で変化はみられないのに対し,門脈枝結紮群,緩徐遮断群では血流遮断葉,非遮断葉との間で有意差がみられ,いずれも非遮断葉のSD活性が高値を示した.注目すべきは緩徐遮断群で全体的なviabilityの上昇がみられた点で,非遮断葉のSD活性は前値と比較して有意に上昇しており,非遮断葉における肝細胞レベルの機能亢進が起こっていることが証明された.肝予備能の推移を考え合わせると,肝葉に対する血流緩徐遮断は非遮断葉の予備能を増大させていると考えられ,抗腫瘍効果のみならず,肝切除の適応拡大を兼ねた術前処置としても応用できる可能性が示唆された.
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