1992 Fiscal Year Annual Research Report
「自己-他者」問題と偶然性:出会いの偶然性の観点から自我論・他者論を捉え直す試み
Project/Area Number |
04801002
|
Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
守屋 唱進 茨城大学, 教養部, 助教授 (90137026)
|
Keywords | 出遇い / 人柄(エートス) / 行為 / エンデコメノン(許容様相) / 偶然性 / 自然的 |
Research Abstract |
当初の研究計画よりさらに的を絞り、次の概念系列に関連があると思われる偶然性概念と特にその近親概念について文献読解と討議によって研究し、1から4までを明らかにした。当の系列とは、「出偶い--人の存在=人柄(エートス)--行為」である。 1.九鬼周造の偶然性論を読解したが、そのポイントは遭遇(出遇い)にあることを確認した。 2.アリストテレスの様相概念のうち、とりわけendechomenonに注目した。この語は『命題論』に初出し、dunaton(可能的)と同義であるかについて論争があったが、現在ではこれをadmissible(許容様相、許容存在)と訳することで諸家の一致を見ている。重要なのは、倫理学の場面でdunatonではなくendechomenonが多用されているという事実であろう。『ニコマコス倫理学』で指摘されているように、行為をめざす思案・選択は「他でも有り得る許容様相の下にあるもの」と関わる、とされている。ここから、<善でも悪でも有り得る許容様相にある人柄>という人間把握を引き出すことが出来ると考えられる。 3.ライプニッツが偶有効(accidental)と本質的(essential)の間に置いた自然的(natural)という様相概念に着目した。「自然的」は上掲系列との関連で使うことが出来るように思われる。たとえば、a)<人柄の自然な発現としての行為>、b)<人柄の自然な発現としての感情>、あるいはc)<自然な行為>、d)<自然な感情>などの文脈においてである。自然性は、善悪といった倫理的価値とは異なる視角の(行為や感情の)基準を提供するものである。この点は在来の行為論・倫理学の盲点であって、なお探求されてしかるベきなのではないか。 4.時代は前後するが、オッカムも同様の自然性概念があることを突き止めた。--以上が今年度研究実績の概要である。
|