1993 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
04803002
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
宮崎 元 大阪大学, 社会経済研究所, 教授 (10229833)
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Keywords | 従業員持ち株制度(ESOP) / 自社株式購入制度 / 利潤分配制度 / インセンティブ(勤労意欲) / フリーライド(ただ乗り怠慢) / 企業統治(governance) / 残余決定権 / エージェンシー(代理関係)理論 |
Research Abstract |
上場企業ではまず例外なく、自社株式購入制度への補助として従業員持ち株制度(ESOP)を採用している。(以下、簡略化のため従業員は経営陣も含むものとする。)これらの企業ではESOP採用の重要な動機として、従業員の勤労意欲の促進がよく挙げられる。さらに、ESOP株式を個人名義に変更するには長期の積立期間が必要なため、ESOPは従業員の企業定着化を促すことになる。よって、ESOPの間接的な効用として、訓練・募集の費用削減と特殊技能や人的資本の築積による組織の生産性の向上がある。しかしながら、理論分析においても実証的な検証においても、ESOPが企業業績に及ぼす効果は判然としない。 ESOP株価は企業の利潤に依存するので、企業の業績を高めようとする基本的なインセンティブ(意欲)が従業員にはある。しかし、企業は多数の従業員の集合体であり、企業の内部における情報と意思決定は分散している。そこで個々の従業員は、他の従業員の勤労を頼みにして(フリーライド=ただ乗り)、自らは怠慢になる可能性がある。従業員間のフリーライドは企業全体の効率を低下させる。この問題を解決するには、非効率な結果を出した経営陣を罰し、従業員の減給を施行する監視役が必要になる。従業員の所得に占めるESOPの率が高いほど、企業監視の重要性が増すと考えられる。安定株主工作の結果、株主市場からの直接監視を受けない日本企業の場合、主力銀行が企業経営の効率を監視していると考えられる。留意すべき点は、ESOPによって勤労意欲が高まっても、企業の業績が良くなるとは限らないことである。企業の内部組織が従業員のイニシアチブを汲み上げることが出来なければ、勤労意欲は業績に反映されない。労使関係のみならず、職場における情報交換と意思決定への参加形態も、企業の業績に対するESOP効果の是非を決定する要因になると思われる。 ESOPの効用を分析するにあたって重要なことは、企業の内部状況のみならず企業外部からの監視が、ESOPと補完的に作用する過程を明らかにすることである。当研究は、従業員間の情報と意思決定を「残余決定権」のコンセプトで説明し、労務管理と企業監視をエージェンシー理論の応用として整合的に捉えるものである。主力銀行を企業の監視役に想定することによって、経営者の利潤への感応性が高く、しかも従業員主導的な労務管理を行うという、一見矛盾する日本企業の行動様式の説明も可能になる。実証面では、各企業における主力銀行の株式所有、労使関係、年功賃金制度、退職金制度も含めた測定なしには、ESOPの企業業績に対する効果を測ることは無意味である。ESOPデータを財務・大株主・春闘データと併用すると、興味深い結果が得られる。つまり、従業員一人当たりのESOP持ち株と従業員一人当たりの生産性は、正の相関関係にある。これはアメリカにおける実証研究が、同様の相関関係はゼロあるいは負であるという結果と好対照である。この実証結果も、企業の監視とエージェンシーのモデルで説明可能である。
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Research Products
(1 results)