2004 Fiscal Year Annual Research Report
近世後期の日韓小説対比研究-江戸戯作研究方法論の一環として-
Project/Area Number |
04F04006
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
キャンベル ロバート 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 助教授
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
KANG Ji-Hyun 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 外国人特別研究員
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Keywords | 十返舎一九 / 式亭三馬 / 振鷺亭 / 春香伝 / 落ち / 物尽くし |
Research Abstract |
比較文学の視座の中に日韓滑稽文学を引き出し、そのレトリックを仔細に点検してみようとした際、<落ち>という類似物に着目し、それが笑いを誘うための共通の表現法として存する事実を考察した。 一九・三馬・振鷺亭は、主に「落咄」(鈴木用語のハナシ)を締め括る為の効果的な演出法として<落ち>を用いていたし、『春香伝』は、主に物尽くしを締め括る為に<落ち>を用いていた、とその傾向をまとめることができよう。後期洒落本と異なって地の文が長い『春香伝』には、地の文にも物尽くしがあり、その物尽くしの中に<落ち>が来る場合もある。唱者(鈴木用語のハナシテ)の存在が露わになる地の文では、自分の聞かせ所を「物尽くし」、その中でも<落ち>を入れることで効果的な演出を試みていたのであろう。 殊に、一九は三馬・振鷺亭より多くの落ちの技法を駆使して、真面目な会話が突然気の利いた意外な言葉でしまいが付くことによって笑いを醸し出すが、それは太鼓持ち等が改めて披露する本格的落咄というより、作品の流れの中で自然に生じる「落咄風」落ちになっている。『春香伝』では種々様々の落ちの技法が駆使されるが、「落咄」ではなく、「漫才」や「一人台詞」・「茶番」の最後を飾っていた。 パンソリ系小説の滑稽性を言及するとき、「滑稽」の効能は、高貴なものを戯画化・卑俗化、諷刺することだとされる。<落ち>に相当する用語は使われないが、本稿で検証した<落ち>も「滑稽性」のその流れに属するものだろう。一方、後期洒落本の<落ち>には、戯画化・卑俗化、諷刺のような流れはあまり認められないゆえ、このように同じ<落ち>であっても異質的な使われ方をしていると言えそうである。
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