2005 Fiscal Year Annual Research Report
光誘起ドリフト法による分子の核スピン変換メカニズムの研究
Project/Area Number |
04F04063
|
Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
松島 房和 富山大学, 理学部物理学科, 教授
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
SUN Zhen-Dong 富山大学, 理学部物理学科, 外国人特別研究員
|
Keywords | 核スピン異性体 / 光誘起ドリフト(LID) / 異性体の分離と変換 / 変換速度 / 変換メカニズム / 炭酸ガスレーザー / 分子科学 / 天文学 |
Research Abstract |
分子が核スピン異性体間で移り変わる現象とその速度の研究は、量子化学や分子科学や天文学において基礎的で重要な意味を持つ。しかし、このテーマは今まで数少ない種類の分子(H_2、CH_3F、^<13>C_<12>CH_4、H_2CO、D_2O、H_2O)の異性体でしか研究例がない。そこで、我々は光誘起ドリフト(LID)効果を利用した新たな実験方法により研究を進め、今回、A_g、B_<1g>、B_<2u>とB_<3u>の4種の核スピン異性体を持つエチレン(C_2H_4)分子においても核スピン異性体間の移行を検出し、その変換速度を測ることに成功した。 LIDによる実験法とは、一つの炭酸ガスレーザーで特定の核スピン異性体分子だけを赤外励起することにより濃縮し、その後の核スピン異性体間の緩和過程をもう一つのプローブ炭酸ガスレーザーの光吸収量で測定するものである。本研究では、炭酸ガスレーザーの10ミクロン帯P44発振線を光変調器で30MHzずらした光源を用い、B_<2u>-C_2H_4異性体をLID法により分離した。測定した濃縮割合は約3%であった。5本の赤外遷移を使って、濃縮した異性体と他の異性体間の変換過程を調べた。実験により、B_<2u>とB_<3u>間およびA_gとB_<1g>間の変換を示すシグナルが観測された。また、異なるパリティーを持つレベルを結びつける分子内の相互作用はないことも実験から証明された。この変換速度の測定に成功したのは世界でも初めてである。変換速度の圧力依存性を調べると、圧力をpとして[(5.5±0.8)×p+(1.8±1.3)]×10^<-4>s^<-1>の値が得られた。この線型の圧力依存性から、エチレン分子の核スピン異性体の可能な変換メカニズムには、分子の特定のレベルと相互作用する近傍の異性体レベルとの間の衝突緩和による再分布が効いていることがわかった。我々の実験結果は、星間分子の分子進化の過程を推論する際に必要となるパラメーターを提供することになり、また、回転レベル間のスピン-スピン相互作用やスピン-回転相互作用の研究に重要な実験データを提供することにもなる。
|
Research Products
(2 results)