高地環境に対する適応と適応不全に関する検討

2005 Fiscal Year Annual Research Report

• Project/Area Number: 04F04240
• Research Institution: Shinshu University
• Host Researcher: 久保 惠嗣 信州大学, 医学部, 教授
• Foreign Research Fellow: 雲登 卓瑪 信州大学, 医学部, 外国人特別研究員
• Keywords: シェルパ族 / 高地適応 / 遺伝 / エヴェレスト / アンジオテンシン変換酵素(ACE) / ACE遺伝子挿入・欠失多型(ACE-I / D多型) / 内皮型一酸化窒素合成酵素 / 酸素センサー

Research Abstract

ネパールの"シェルパ族"は、500年以上前からエヴェレスト街道沿いに居住する高地適応民族である。彼らは高地環境下(すなわち低酸素環境下)で卓越した心肺機能を発揮し、今やヒマラヤ登山において不可欠の存在である。本研究では、ヒマラヤ山麓のネパール・ナムチェ村(海抜3,440m)に居住するシェルパ族と首都カトマンズ(海抜1,400m)に居住するネパール人(非シェルパ族)を対象とした。2004年9〜10月にかけ、現地でアンケート調査と血液検体採取を行った。帰国後、血清一酸化窒素代謝産物(NOx)および血清アンジオテンシン変換酵素(ACE)活性を測定し、内皮型一酸化窒素合成酵素(eNOS)遺伝子、ACE遺伝子、hypoxia-inducible factor 1 (HIF-1)遺伝子およびvon Hippel-Lindau (VHL)遺伝子の各多型をPCR法で検討した。シェルパ族105名、非シェルパ族111名より協力が得られ、平均年齢はシェルパ族31.2±0.8歳に対し、非シェルパ族29.9±0.8歳であった。血清NOxは非シェルパ族で有意な高値を示したが、血清ACE活性は両群とも同レベルであった。遺伝子多型の検討では、eNOS遺伝子のGlu298Asp変異における対立遺伝子Glu、eNOS4b/a多型における対立遺伝子eNOS4b、およびACE遺伝子のI/D多型における対立遺伝子Iが、シェルパ族において有意に高頻度であった。一方、HIF-1遺伝子およびVHL遺伝子の多型に関しては、両群間で有意な差を認めなかった。高地居住民族であるシェルパ族にeNOS遺伝子およびACE遺伝子の野生型が有意に高頻度であることが判明し、これら対立遺伝子の存在が高地適応に関与すると考えられた。

Research Products

• [Journal Article] Genetic Contribution of the Endothelial Nitric Oxide Synthase Gene to High-Altitude Adaptation in Sherpas (2006)
  • Author(s): Yunden Droma, Masayuki Hanaoka, Buddha Basnyat, Amit Arjyal, Pritam Neupane, Anil Pandit, Dependra Sharma, Naoyuki Miwa, Michiko Ito, Yoshihiko Katsuyama, Masao Ota, Keishi Kubo
  • Journal Title: High Altitude Medicine & Biology (in press)