2004 Fiscal Year Annual Research Report
脱儒から脱亜へ--日本近世・近代の思想変化と東アジア思想構図の再構成
Project/Area Number |
04F04252
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
黒住 真 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 教授
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
韓 東育 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 外国人特別研究員
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Keywords | 日本近代歴史観 / 仁 / 反革命 / 近世日本社会 / 儒教 / 脱儒 |
Research Abstract |
一、儒教の捉え方について 日中両国の相違点を正確に認識するためには、江戸時代における儒教についての捉え方を重要視せねばならないのである。また、それを中国学界に紹介することにも大きな意味を持つと思われる。来日してから、私はまず黒住真著『近世日本社会と儒教』を研究し、その研究に基づき、「徳川における儒教の素顔について-黒住真の『近世日本社会と儒教』を読む」を題に論文を出した(香港中文大学・中国文化研究所編『二十一世紀』2004年12月号に掲載)。そこで、(1)江戸時代における儒教は体制化のレベルまで上がらなくて、ただ一部の知識人の間で流行していた、(2)体制化され極端なレベルに上がることがなければ、儒教そのものが急に消えてしまうこともない、(3)その後の政治がなぜ「脱儒」しやすかったか、その原点は以上の二つにある、という所見を提示した。 二、日中の歴史観について 思想史に現れる日中両国の歴史観は、従来、研究者の盲点だと言われている。しかし、日中両国間の根本的な食い違いは歴史観をめぐる食い違いだと考えられる。日中における「政冷経熱」(政治交流を疎かに、経済交流を盛んに)の現状のなかで、歴史観についての認識がとりわけ重要である。そのために、来日後研究を深めてきたが、得られた所見は次のようにまとめることができる(中国社会科学院の『歴史研究』2005年第1号に掲載)。(1)革命の根拠としての「仁」をとくに重視する道徳的歴史観を持つ中国と異なって、日本の場合は、「仁」を次位的に位置づけさせていた。(2)その方向で、日本人の歴史観、歴史についての編纂原則、ないし日本国体の行方が形成されていた。(3)日本人の歴史観の形成は、いくつかの日本伝統の哲学とつながることはもちろんだが、江戸時代からスタートした反朱子学運動がそれに直接関与した部分もあったと思われる。その理解を前提に、なぜ明治維新を時として「反革命運動」とも呼ばれるか、また「万世一系」という日本の国体伝統が単に「皇国史観」によって作られたのでもない、などについて釈明が得られる。(4)以上を通して、日本の歴史観には「脱儒」する趨勢が予てからなりつづけてきたことを新たな発見として提示する。
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