2004 Fiscal Year Annual Research Report
現代の世界文学のコンテキストにおけるヨシフ・ブロツキーの詩学
Project/Area Number |
04F04255
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
沼野 充義 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 教授
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
KIM H. 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 外国人特別研究員
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Keywords | ヨシフ・ブロツキー / ロシア現代詩 / メタポエトリー / 亡命詩学 / ミハイル・バフチン / 他者 / ポリフォニー / ユーリイ・ロトマン |
Research Abstract |
他の詩人に比べて、ヨシフ・ブロツキーにはとりわけメタポエトリー(詩についての詩)が多いが、その理由は何か。 「メタ」という概念は今まで主にユーリイ・ロトマンを中心とした記号学および構造主義の中で論じられることが多かった。しかし本研究で注目したのは、常に記号学および構造主義を批判し続けてきたミハイル・バフチンが、記号学の概念である「メタ」を用いて独自の「メタ言語学」を成立させ、その中で自分なりの「メタ」理論を繰り広げたことである。バフチンにおいて「メタ」という概念は、記号学でいう抽象的で完成された一つの「コード」、情報の暗号を解読しそれを伝達するための手段ではなく、二つの主体の具体的な出会いの中でその相関関係によって生じるものなのである。 このバフチンの「メタ」論を基にブロツキーのメタポエトリーを分析していくと、彼の詩の世界に常に存在する≪отчуждение≫(疎外)のテーマが浮かび上がってくる。メタポエトリーの中には詩を書いている自分自身を見つめるもう一人、もしくは自分の詩にコメントする「他者」が存在している。つまり叙述する詩人と叙述される主人公の二つの抒情的主体が存在し、ポリフォニーが生じていることになる。これは詩人が詩を書く自分自身を切り離し客体化した結果である。 詩人であるが故に社会から断絶され孤独に生きる詩人ブロツキー、母国からさらには母語から切り離された亡命詩人ブロツキー、その彼が行き着いたのが、自分自身すらも「他者」の目で見つめるメタポエトリーの境地だった。このような方法論は、同じロシア出身の亡命者であっても、ソルジェニーツィンのようなタイプの作家には見られない。 このようにバフチン的な「二つの抒情的主体」の存在、「多声論」の概念を導入することによって、ブロツキーにおけるメタポエトリーの本質を明らかにした。このメタポエトリーこそ彼の亡命詩学が具現化したものである。
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Research Products
(2 results)