Research Abstract |
1.凍結・融解期間中の塩分集積 2004年冬から2005年春にかけて,内蒙古河套灌区の耕地および塩害地において定期的に土壌塩分を分析した結果,土壌の凍結によって水分と可溶塩分は土壌表層へ移動し,凍結層中に貯留される。土壌の融解初期には,気温の上昇で重量水の一部が土壌下層へ流れ込むが,その後の融解の進行とともに強い蒸発で土壌水分および可溶解塩分が土壌表層へ移動する。この結果,春季での0〜0.4mの土壌耕作層の含水率は約25%で,塩分濃度EC_<1:5>は0.50dSm^<-1>であり,播種および作物発芽条件に適合すると考えられる。しかし,一方塩害地では,同じ深さの土層のEC_<1:5>が3.5dSm^<-1>に達し,土壌融解期終了後の表層への塩分集積(返塩現象)が深刻であることが分かった。 2.灌漑耕地と隣接塩害地の水分収支と塩分収支 2005年の灌漑期間における耕地と隣接塩害地の水収支を求めた。流入については降雨量と灌漑水量、流出については蒸発散量,土壌面蒸発量,横浸透量(不飽和帯、飽和帯)の各成分を求めた。また,灌漑耕地と塩害地の深さ1mの土層へ流入・流出する土壌水分フラックスに,各土壌水フラックスの塩分の濃度をかけて積算し,塩分収支を計算した。 灌漑耕地の水の流入は降雨量51mm,灌瀧水量747mm,計798mmであった。流出は蒸発散量で571mm,不飽和帯の横浸透で10mm,地下水への涵養量が213mm,計794mmであった。一方,塩害地では水の流入は降雨量51mm,不飽和帯の横浸透量10mm,地下水からの毛管上昇量150mm,合計211mmであった。流出は土壌面蒸発で188mm,残り23mmは地下水の隣接塩害地への横移動で消費されたものと考えられる。また,灌漑耕地で塩分集積量は0.07kg/m^2,塩害地は0.4kg/m^2となり,灌漑耕地の5.7倍の塩分が塩害地に集積することが分かった。塩分集積が100cmの深さの塩害地土層において,現在の集積速度0.029%で生じるとすると,土壌は7年間で弱塩類化土(0.2〜0.4%)に劣化する。塩分集積が表層30cmに現在の集積速度0.1%で集積するとすれば,土壌は2年間で弱塩類化土に劣化する。灌漑耕地へ取水された灌漑水が地下水を通じた毛管上昇により塩害地で消費され,塩害地での塩分集積を加速している実態が定量的に明らかになった。
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