Research Abstract |
Os同位体比は,親核種Reと娘核種Osとの地球化学的性質の差から,地球化学的レザーバーによって同位体比が大きく異なり,トレーサーとして有用である。例えば,マントル物質では^<187>Os/^<188>Os=0.10-0.13であるのに対し,大陸地殻物質ではその10倍の^<187>Os/^<188>Os=1.0-1.3と10倍ほど異なる。本研究では,Os同位体比のこの特徴を利用して,島弧火山岩の同位体組成から沈み込み帯における地殻物質のリサイクルの議論を試みた。島弧火山岩中のOs濃度は数pptから数十pptと極端に低く,本年度の前半から中盤にかけてOsの化学分離におけるブランクを下げることに力を注いだ。その結果,ブランク値は3pgから1pg未満まで下がり,10-30pptのOs濃度の試料に関して,0.3-0.7%の測定誤差(2-s)での議論が可能になった。そこで,ケルマデック島弧の火山フロントにあたるClark及びRumble IVの溶岩に関して,Re, Osの分析を行った。Os濃度は1.4-56pptを示し,Os濃度と年代補正をした同位体比との相関から,Os濃度10ppt未満の試料についてはマグマが上昇する際の地殻物質の同化作用が認められた。Osを分析した同じ試料に関して,Hf同位体を分析すべく,試料はすでに処理を終了した。現在MC-ICP-MSの状態がよくないため,装置の状態が戻るのを待っているところである。一方,ケルマデック島弧に直交する方向に沿って採取された試料についてもOs同位体比を測定し,火山フロント試料より高いOs同位体比を得た。また,対象試料のメルト包有物から沈み込むスラブからのフラックスを探るため,オリビンを鉱物分離して分析のための準備を整えた。この試料に対して,EPMA, FT-IR, LA-ICP-MSを用いて包有物中の水,主要・微量元素組成を分析する予定である。
|