2005 Fiscal Year Annual Research Report
プラトン後期思想の研究-『ピレボス』の文献批判を中心に
Project/Area Number |
04J00047
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
早瀬 篤 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | プラトン / ピレボス / 快楽論 / 倫理学 / 古代哲学 / 哲学 / 西洋古典 |
Research Abstract |
本年度の研究成果は、第一に、プラトンの後期思想における哲学的問答法(dialektike)の構造を、従来とは異なる視点から解明したことである。本研究の中心課題である対話篇『ピレボス』の前半部(11a-31b)では問答法についての議論が中心となっているが、その箇所は非常に難解であり、従来の解釈者は、多くの人(特にRoss, Hackforth, Guthrie, Griswold)のあいだで賛同されている別の対話篇『パイドロス』265c-266bで説明される問答法についての解釈(伝統的解釈)をそのまま『ピレボス』に持ち込むことによって説明を与えようとしてきた。しかし、この説明は多くの不整合を含んでしまうので、その点をさらに説明するために煩瑣な議論が延々と続いているという状況にある。そこで『パイドロス』に遡って研究した結果、伝統的解釈そのものが誤っていることを論証できたので、それを論文にまとめたのが本年度の主要な成果である(論文は投稿中)。とくに、これまで誰も明確に指摘しなかったが、伝統的解釈は265c-266bと277b-cとの対応を主要な根拠としている。しかし、この対応は不完全であり、問答法にとって鍵となる「定義」という言葉に特殊な意味を与えなければ整合的に読めない。そこで私は、むしろ両者は対応せず、後者の箇所で与えられているのは対象の定義と内的な分析という二段階の本質説明であるという別の解釈を提示した。この解釈をとることは同時に、後期思想の問答法全体についていくつかの根本的な理解の変更を受け入れることでもある。第二に、本年度の前半はRowe教授からテクストの読み方に関するものを含む『ピレボス』研究についてのアドヴァイスをいただきつつ、Research Associateとして英国Durhamで在外研究を行い、さまざまな知見を得ることができた。
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