Research Abstract |
本研究は,プレート境界地震発生帯に広く分布している蛇紋岩に焦点をあて,蛇紋岩の脱水反応に伴って断層のレオロジーがどのように変化するのかを,高速摩擦試験機と高温高圧ねじり試験機を連携させて明らかにすることである. 高速摩擦実験の結果,地震時のすべり速度(>0.5m/s)に達すると,すべり開始とともに断層の摩擦係数が0.9から0.15まで減少することが明らかとなった.温度測定とFEMによる温度計算の結果によると,断層面は脱水反応が起こる温度に達していないものの,アスペリティ(真の接触域)におけるflash temperatureは,脱水反応に十分な600℃以上に達していることがわかった.このように,局所的な摩擦発熱により脱水反応が起こり,それに伴って断層の強度が劇的に減少することが初めて示された. 断層の強度低下の要因をさらに詳しく調べるため,高温高圧ねじり試験機を用いた摩擦実験をおこなった.実験では,断層をゆっくり(<0.1mm/s)滑らせながら,電気炉を用いて温度を上昇させて脱水反応を起こし,反応に伴ってどのように摩擦が変化するかを調べた.その結果,温度上昇率が大きくなると,排水条件(水が断層面から排出される条件)においても,脱水反応に伴って大きな強度低下が起こることがわかった.これは,脱水反応に伴う間隙水圧の上昇率が排出率を上まわったためである.摩擦発熱に伴う温度上昇率は,高温高圧実験より5オーダー以上大きいことから,高速実験においても局所的に間隙圧が上昇して断層の強度が低下したと考えられる. 以上の2つの実験から,地震時には断層帯内部の含水鉱物が摩擦発熱によって脱水して,反応生成物である水の圧力が上昇することによって断層の強度が劇的に減少することがわかった.地震時に摩擦係数が0.1〜0.2になるという本研究から得られたデータは,断層沿いの地殻熱流量測定から推測される値とよく一致しており,非常に現実的な地震時の断層の強度低下機構になると考えられる.
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