2004 Fiscal Year Annual Research Report
マルセル・プルーストにおける芸術体験と<土地>という問題をめぐる研究
Project/Area Number |
04J00451
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
小黒 昌文 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(DC2)
|
Keywords | マルセル・プルースト / 美術館 / 第一次世界大戦 / モニュメント / 記憶 / ジェラール・ド・ネルヴァル / 古典復興 |
Research Abstract |
プルーストにおける<土地>という主題と、同時代の芸術的・社会的言説との影響関係を検証することを目的とした研究実績は、大別して以下の3点にまとめられる。 まず、第三共和制下に著しい発展を遂げた美術館制度が、プルーストの小説美学にどのような影響を与えたのかを明らかにした。芸術作品をその「出生地」から切り離すことを批判する反美術館論者たちの言説に触れたプルーストは、作品と<土地>との絆に意識的になるいっぽうで、そうした結びつきから自由な「賞讃すべき無国籍者」(プルースト)としての芸術作品にひとつの理想を見出している。世紀転換期のプルーストに芽生えたこの視点は、『失われた時を求めて』に通じる芸術創造の理念の重要な柱となっているのだ。 つぎに、これまで多く論じられることのなかったプルーストと第一次世界大戦との関係に着目し、戦争がもたらした<土地>の破壊をこの作家がどのように小説の創作に反映させたのかを検証した。なかでも教会建築をはじめとした数多くのモニュメントの破壊をめぐる当時の言説の分析と、私的な記憶と結びついたコンブレーが戦火に曝されるエピソード(『見出された時』)の読解を通して、<土地>の束縛から自由な<書物>という新たなモニュメントを構築しようとしたプルースト美学の独自性を明らかにした。 そして、プルーストが、1908年から1909年にかけて書き付けた『シルヴィ』に関する批評断章(『サント=ブーヴに反論する』)を同時代の文学批評の流れのなかに位置づけ、20世紀初頭の重要な文学的・社会的トポスのひとつである「古典復興」renaissance classiqueの動向がプルーストの批評的実践に与えた影響をあきらかにした。「古典復興」運動は、伝統主義的な視点から、ネルヴァルとフランスの大地とを結びつけ、その絆を高く評価した。プルーストにおいてはこうした解釈に対する抵抗が、批評と文学創造をめぐる思索を深める重要な契機となったのである。
|
Research Products
(1 results)