Research Abstract |
我々は日常生活において,コップをつかんだり,本棚から本を取るなどの,目的に応じた行動をたやすく行うことができるが,そのメカニズムはどのようになっているのか,特に,到達把持運動中において,どのようなオンライン視覚情報(例えば,自身の手腕の視覚フィードバック,ターゲット物体の見え,背景などの外的環境の中に存在する手がかり)が重要であるのかについて,心理実験により検討した.手の見えと対象物体の見えに注目し,これらの見えが操作できる液晶水平盤を用いた,運動中の手の見え(見えあり条件・見えなし条件),運動開始後から対象物体の見えが遮断されている時間(0ms・150ms・350ms),物体の大きさ(直径4cm・6cm,高さ11cm共通)を要因とする3元配置の実験を行った.主な結果として,指間距離最大値(親指・人差指間)について,物体の見えは150ms条件と350ms条件間で有意差が認められ,福井・乾(2003)同様,運動時間1000ms程の運動では150ms〜350ms間の対象物体の視覚情報が把持制御に重要であることが明らかになった.さらに,手の見えの主効果,手の見えと物体の見えの交互作用も有意であり,物体の見えが利用できない場合に,運動初期段階からの手の見えの影響も示唆された.以上より,到達把持運動においては,視覚環境の状況に応じて,柔軟な視覚情報の利用が初期段階にオンラインで行われていることが明らかになった.
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