2005 Fiscal Year Annual Research Report
カントにおける美学と社会哲学 -ヘルダ-による批判からの再構成-
Project/Area Number |
04J01029
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
杉山 卓史 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | カント / ヘルダー / 美学 / 共通感覚 / 共感覚 |
Research Abstract |
一昨年度までに行なったカントの共通感覚論の研究と昨年行なったヘルダーのカント美学批判の研究とを承けて作成された交付申請書に基づき、本年度はヘルダーの共通感覚論の研究を進めた。まず注目したのは、彼の『言語起源論』(一七七二年)における「われわれは思惟する共通感覚器官(sensorium commune)である」という発言である。これは、元来は医学・心理学の研究対象であった「共感覚(synesthesia)」、すなわち、一つの感覚刺激によってそれには本来対応しないはずの別の感覚意識が生じる--たとえば、音を聴くと色が見える「色聴」といった--現象を哲学・美学に導入しようとする近年の動向において、その理論的端緒として注目を集めつつある。しかし、なぜ理論的端緒たりうるのか、その理由づけが不十分であったので、本年度の研究において医学・心理学的共感覚研究の成果を援用しつつ十分な理由づけを試みた。近年の医学・心理学的共感覚研究の成果によれば、この現象は具体的な感覚融合体験として診断されるものであって辺縁系で発生している。その意味で、共感覚はアリストテレスの共通感覚とは正反対のものである。というのは、後者は抽象的な属性を捉える能力だからである。しかし、ヘルダーの「共通感覚器官」はアリストテレスの共通感覚のようなものではない。この表現によって彼が主張しているのは、全ての感覚は原初的には同一のもの(=触覚)であり、ここから分化して協働しているのだ、ということである。これは、言語の成立にも美の判断にも先立つ状態である。ここにおいて、抽象の能力ではない共通感覚概念が思想史上初めて誕生したのである。ヘルダーの「共通感覚器官」が共感覚概念の端緒であるとは、このような意味においてである。
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