2004 Fiscal Year Annual Research Report
魚類の群れ行動の形成メカニズムと生態的機能に関する実験行動学的研究
Project/Area Number |
04J01274
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
中山 慎之介 京都大学, 農学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | マサバScomber japonicus / 群れ行動 / 情報伝達 / 行動の個体発生 / 視蓋 |
Research Abstract |
2004年6月,京都大学フィールド科学教育研究センター舞鶴水産実験所においてマサバ仔稚魚の飼育を行った.飼育水槽内においてマサバを2日おきにビデオ撮影し,群れ行動(並行遊泳)の発現時期を調べた.また,群れ行動を示し始めた孵化後16日目から,個体間で脅威に関する情報が伝達されるかどうかを日齢ごとに調べた.個体間での情報伝達は,群れ行動をより効率的に機能させるためには不可欠な要素であると考えられる.実験は,隣り合う透明な実験水槽にマサバ稚魚を5個体ずつ入れ,一方に電気刺激を与え,隣り合う水槽のマサバにおいて仲間の行動が視覚を介して伝達されるかどうかを調べた. ビデオ画像から,マサバは変態期にあたる孵化後16日目から群れ行動(並行遊泳)を発現し始めることが分かった.しかしながら,個体間での情報伝達が見られるようになったのは孵化後30日目を過ぎてからであった. その後,本学(京都市)にサンプルを持ち帰り,マサバの脳の成長に伴う発達を観察するため,各実験日におけるマサバの頭部切片を作成し,ヘマトキシリン・エオジン染色を施した.各切片は一個体ごとに脳の中脳(視蓋)の面積を測定し,積分して体積を求めた.その結果,マサバは群れ行動を発現し始めた孵化後16日目から20日目にかけては,体長が大きくなるにもかかわらず視蓋の増大は見られず,情報伝達行動が見られた孵化後30日以降,急激に増大した. 以上の実験から,マサバは変態期(孵化後16日目)を過ぎたあたりから並行遊泳を発現し始めるのに対して,個体間での情報伝達ができるようになるにはそれからおよそ2週間遅れることが分かった.視覚情報の中枢器官である視蓋の発達過程が情報伝達という高次行動を行うにはまだ未発達であった可能性が考えられる.また,群れ行動は単なる並行遊泳という低次なものから個体間での情報伝達という高次なものへと段階的に発達していくことが示唆された.
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