2004 Fiscal Year Annual Research Report
初期中世アイルランドの法と社会-法律文書編纂の過程と法・裁判システムの解明
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04J01812
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Research Institution | Kokugakuin University |
Principal Investigator |
田村 秋子 國學院大學, 経済学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | アイルランド / 中世史 / 古アイルランド法 / 法律文書 / 裁判 / 教会 |
Research Abstract |
研究課題の目的である初期中世アイルランドにおける法律文書編纂過程および裁判システムの解明の研究の最初の段階として、本年度は主に以下の研究を行った。 1.主要な法律文書テキストの翻訳作業 大量の法律文書の中から、特に文書編纂過程および裁判制度に関する史料となるものを選び、精読・翻訳を行なった。主なものは『クリース・ガヴラハ』、『ウラケフト・ベグ』、『ウラケフト・ナ・リアル』、『コールス・ベスグニ』、『アダムナーン法』である。その中で特に『アダムナーン法』は、教会裁判制度と世俗の裁判制度の関係を考察するため、またより広く当時の教会と社会の関係を考える上でも非常に重要な史料であり、翻訳に詳細な訳註および解説を付して、共著論文として発表した。その際、法律テキスト部分の翻訳および註を全面的に分担した。 2.7、8世紀アイルランドの裁判制度における世俗裁判と教会裁判の関係に関する研究 教会および世俗の裁判権の関係は、この時期のアイルランドにおける大きな研究課題であり、本研究課題の中でも重要な位置を占める。翻訳を行なった史料に基づいて、7、8世紀のアイルランドにおいて既存の世俗裁判権・法と教会の裁判権・教会法がどのような関係におかれていたか、またどのような関係であるべきだと考えられていたのかを考察した。大きな問題であり、結論を得るには至っていないが、経過報告として2004年10月日本ケルト学会年次大会において研究発表を行なった。この問題に関しては、今後、教会側の史料についても、さらに考察を深めることが必要である。 3.初期中世アイルランドの記述文化についての考察 研究課題を進めるために、前提として行なわなければならない研究である。アイルランドの文字文化、記述文化はキリスト教教会の影響を受けて6世紀以降始まり、7世紀に本格化する。法律文書もこの初期の記述文化隆盛期に書かれた。比較的歴史の浅い文字文化であり、また教会の影響が色濃いなかで、世俗の法律文書がどのような経緯で、どのような人間によって編纂されたのかを考察するためには、初期の記述文化の考察が不可欠だからである。初期中世のヨーロッパ大陸やアングロ・サクソン時代のイングランド等とも比較しつつ、人材・内容・記述スタイルや目的などの諸側面についてアイルランドの記述文化の特徴を探った。その成果を日本ケルト学会の連続コロキウム「外来文化受容と土着記述分化の成立」の一貫として報告した。 4.ダブリンにおける史料収集と学会参加 アイルランドのトリニティ・カレッジ図書館で法律関係の史料収集を行ない、また現地研究者から研究課題について助言を得た。また現地の中世史学会に参加し、最新の研究成果を知ることができた。
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Research Products
(1 results)