2004 Fiscal Year Annual Research Report
20世紀政治思想の形成におけるルカーチの美学と革命論の連関に関する思想史的研究
Project/Area Number |
04J02367
|
Research Institution | Seikei University |
Principal Investigator |
西永 亮 成蹊大学, 法学部, 特別研究員(PD)
|
Keywords | 政治思想史 / ルカーチ / 政治理論 / 20世紀 / 美学 |
Research Abstract |
本研究の目的は、第一次世界大戦勃発前後からスターリン体制確立までの期間におけるG・ルカーチの美学と政治思想に関する研究を通して、20世紀政治思想の形成の特質を解明することである。本年度ではとくに、かれの思想に対する第一次大戦勃発の影響を主たるテーマにして研究を行なってきた。 そのなかで得られた重要な論点として次の2点を挙げることができる。1、ルカーチのドストエフスキー論の政治思想的意義。2、第一次大戦勃発に対するTh・マンおよびジンメルの肯定的態度とルカーチの批判的態度との差異。 1、ルカーチのいわゆる「ドストエフスキー・ノート」は死後発見された断片的なメモ書きの類いであり、研究もドイツを中心に近年ようやく進展しつつある状況である。しかし、これがもつ無視しえない政治思想的意義は、(1)ロシア革命でのテロリズムの倫理への関心、(2)「ドイツ対ロシア」という認識枠組み、これらが明瞭に認められるという点にある。(1)は、それまで美学者もしくは芸術批評家として知られていたかれがロシア革命を契機に政治へと関心をシフトさせたことを示しており、また(2)は、後述するように当時のドイツ知識人の多くが共有していた「西欧対ドイツ」の図式に対して距離をとる際の認識的基礎になったと考えられる。 2、ルカーチの第一次大戦に対する態度は、勃発直後(1915年)に執筆され死後発見された草稿「ドイツ知識人階級と戦争」に表明されている。このテクストでかれは、マンとジンメルの主張を分析しながら、ドイツ知識人の戦争熱に批判を加えている。かれらに共通するのは、西欧(とりわけ英国とフランス)の文明と資本主義によって汚されたドイツ文化を復興させるものとして戦争をとらえる点である。それに対してルカーチは、第一次大戦は西欧文明における「即物化」の延長でしかないとし、それを克服するものとしてロシア革命に期待する。
|