2004 Fiscal Year Annual Research Report
中世における仏教と文学の習合について-密教僧栄海を中心として-
Project/Area Number |
04J02429
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Research Institution | International College for Postgraduate Buddhist Studies |
Principal Investigator |
佐藤 愛弓 国際仏教学大学院大学, 仏教学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 栄海 / 講式 / いろは歌 / 和歌陀羅尼観 / 猿投神社 / 密教僧 / 勧修寺 / 南北朝時代 |
Research Abstract |
2004年8月2日〜7日、12月17日〜21日、2005年3月18日〜22日の勧修寺調査や、2004年8月24日〜26日の東寺観智院調査を通して栄海関係の典籍を調査し、その内容を分析した。また、京都市の仁和寺、名古屋市の真福寺、豊田市の猿投神社、大阪府の金剛寺に所蔵される典籍を調査し、その内容を分析した。その成果として以下のような論文をまとめた。論文「栄海作『弘法大師講式』について--付翻刻--」では、東寺観智院に所蔵される『弘法大師講式』を翻刻紹介し、その内容を分析した。『弘法大師講式』は晩年の栄海が自らの死の近いことを悟り、往生を願って作文した講式であり、栄海の思想を知る上で重要な資料であることが判明した。またこの資料を書写した栄海の弟子賢宝の識語には栄海の死の様子が書かれており、栄海の伝記を整備する上でも貴重な情報を持つ。この講式の内容から、栄海の往生思想や霊験に関する世界観を知ることができたが、この成果は今後栄海編纂の伝記集『真言伝』の編纂姿勢について考察を進める上で有効なものである。 「『伊呂波畧釈』解題ならびに翻刻」では、愛知県豊田市の猿投神社に所蔵される『伊呂波畧釈』を翻刻し、その内容を紹介した。この資料は猿投神社資料の総目録編纂のための調査の中で発見された資料である。その内容はいろは歌を『涅槃経』の偈の意味を表した歌であるとして解説した書であり、和歌と陀羅尼を同一とする栄海の和歌陀羅尼思想とも通じるものであることが判明した。また和歌やいろは歌といった日本的な言語表現を仏教思想と結びつける思想についての研究を進めることができた。 「慈尊院栄海の活動」では、勧修寺に所蔵されている多数の栄海関係の資料の奥書を調査収集し年譜を作成した。これまでに作成していた東寺観智院所蔵の栄海関係資料の年譜と併せて見てゆくと、栄海の一生をさらに正確に理解することができる。またこれらの調査からは、栄海と後宇多院や後醍醐天皇との関わりが明らかになり、真言僧栄海が南北朝という動乱の時代のなかで果たした役割を知ることができた。南北朝時代の密教僧の王権への参加については、網野善彦氏の著名な論が定説とされているが、栄海を通してより具体的に密教僧の側からの動きを解明することができると思われる。 これらの論文を通して慈尊院栄海の思想や伝記、言語表現や社会的活動についての研究を進めることができた。
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