Research Abstract |
今年度は,熱帯域における面的な海洋汚染の広がりを解明する為の手法の確立を目的として,西太平洋域の数地点から得られたサンゴ骨格中の重金属元素の測定を行った.研究対象とした元素は,バナジウム,マンガン,銅,スズ,鉛,ウランの6元素である.測定には,Hewlett Packard社製4500 Series誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS)を使用し,試薬による干渉を防ぐ為,分析には高純度硝酸のみを用いた. サンゴ試料(Porites sp.)は,海南島,香港,石垣島,天草,小笠原,ポンペイ島,ジャカルタ湾から採取され,各地域における季節性やサンゴ骨格の微少構造による濃度の不均一性を除去するために,3-5年間の骨格成長に相当する部分を削り取るかたちで,バルク試料を準備した.またジャカルタ湾からは,沿岸から外洋へのトランセクトラインに沿った3地点から採取されたサンゴ試料を用いた. これまでに沿岸域における陸源物質の流入の指標として,サンゴ骨格中のマンガンが適用できるとの指摘があったが,本研究においてはジャカルタ湾の3試料を用いて,サンゴ骨格中のマンガン濃度と試料採取海域の濁度に類似した傾向があることを明らかにした.マンガン濃度,濁度ともに沿岸部で高く,外洋に向かって値が低くなる傾向を示しており,サンゴ骨格中のマンガンの陸源物質の指標としての可能性が示唆された.さらに鉛については,西太平洋表層において大陸側(海南島)から外洋(ポンペイ島)へと鉛濃度が減少していることが分かり,大陸起源の鉛が西太平洋に広がっていることが示唆された.一方,ジャカルタ湾の3試料からは,湾奥から外洋に向けて鉛濃度の減少が見られ,ジャワ海表層ではジャカルタ等のインドネシアの主要都市から放出される鉛の影響を受けていることが示唆された.
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