2005 Fiscal Year Annual Research Report
「天狗草紙」の構想にみる中世日本の<宗>認識と仏法観
Project/Area Number |
04J03622
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
土屋 貴裕 千葉大学, 大学院・社会文化科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 天狗草紙 |
Research Abstract |
昨年度は、「天狗草紙」の系統、及び祖本の成立について分析を進めたが、その検討の中で明らかになったのは、「天狗草紙」には「七天狗絵」という祖本が存在していたということ、祖本成立には「寂仙上人遍融」という東密僧が関わっていたということである。これらの考察は、「「天狗草紙」の復元的考察」として『美術史』159冊(2005年10月)に掲載された。 これらをもとに本年度は、本研究課題の中心テーマとなる「天狗草紙」成立の仏教思想的・社会的背景の解明を中心に分析を進めた。とりわけ、中心課題にすえたのは、祖本を継承したと考えられる日本大学総合学術情報センター蔵「魔仏一如絵」と、現存する「天狗草紙」の絵画表現上の差異についての検討である。これらの分析の結果、以下を明らかにするに至った。まず、「天狗草紙」では、祖本で目指された「諸宗和合」の理念に揺らぎがあることが確認でき、その成立には禅や天台に親近感を有するものが関与していたと推察される。また、「天狗草紙」では、祖本で見られた一遍ら時宗への批判が大幅に後退しており、これら画面の改変には絵師の観者への「はばかり」を読み取ることができる。以上の点を集約し、「「七天狗絵」と「天狗草紙」」(『佛教文学』30号、2006年3月掲載予定)という論文にまとめ、「天狗草紙」の成立圏に新たな視点を提示することができた。 これらの分析に加え、「天狗草紙」の様式、及び作画工房に関する分析を進めた。検討の結果、従来の研究では指摘されていなかった同時代、及び次代の絵画作品と「天狗草紙」の様式的共通性を見出すに至り、「天狗草紙」の注文主、および観者の絞込みとともに、鎌倉時代の作画工房の実態についても新たな視点を提示できるものと思われる。これらの成果をまとめつつ、本研究全体の考察を集約していくことが、来年度の課題となる。
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Research Products
(2 results)