Research Abstract |
本研究では,軽量かつ成形性に優れる高分子材料を強度部材として使用するために,その力学挙動を適切に表現可能な数理モデルの構築と,それを援用したシミュレーションによる変形挙動の解明を目的としている.前年度までに,結晶性高分子材料の微視領域を構成する非晶・結晶相の積層混合相の変形,ならびにそのような微視構造がパッチワーク状の組織を形成した球晶内部の2次元構造を表現したマルチスケールモデルを構築し,結晶性高分子材料の微視およびメゾスケールにおける変形挙動を明らかにした.今年度は,本モデルを3次元に一般化することにより,球晶内部における複雑なラメラの3次元構造が材料の変形挙動に及ぼす影響を評価した. その結果,結晶化率の増加に伴ってメゾ領域全体の初期弾性率,降伏応力が増加すること,微視領域におけるラメラの方位や周囲との相互作用の影響で局所的な変形が生じ,それが変形に伴う分子鎖の配向によって周囲の領域へ伝播していくことを明らかにした.また,球晶内部におけるラメラの3次元構造を考慮した場合,球晶の一部分を抽出した2次元の場合よりも大きな応力が生じており,ラメラの3次元構造が球晶全体の剛性を高めていることを明らかにした.さらに,ラメラの初期方位と回転量の関係は,平均的な特性,ならびにそのばらつきなど,AFMによる観察結果と同様な傾向を示しており,このような結果は本モデルの妥当性を裏付けるものである. 以上のように,本研究では結晶性高分子材料の微視およびメゾ領域における構造をモデル化し,それを用いて異なる変形条件下における材料の微視からメゾ領域の変形特性を明らかにした.本研究が結晶性高分子材料の微視およびメゾ領域における力学特性の理解のために利用され,高強度・高機能を有する材料の設計に対し,適切な情報をもたらすことを期待する.
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