2004 Fiscal Year Annual Research Report
シャルル・ケックランの《ジャングル・ブック》-フランス音楽の伝統に関する一試論
Project/Area Number |
04J04201
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Research Institution | Tokyo National University of Fine Arts and Music |
Principal Investigator |
安川 智子 東京藝術大学, 大学院・音楽研究科, 特別研究員DC2
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Keywords | 音楽史 / フランス音楽 / シャルル・ケックラン / 音楽社会学 / 19世紀〜20世紀 / 管弦楽法 / 交響詩 |
Research Abstract |
本年度は、博士論文の基礎となる研究を進めた。 前期は、大英図書館よりシャルル・グノーの《ガリア》のスコアを取り寄せて、この作品を通して、1871年の「アルス・ガリカ」とは何であったのか、後世に何を伝えたのか、を明らかにすることに成功した(『音楽学』第50巻3号掲載決定)。すなわち、アルス・ガリカは、第3共和制というフランスの政治形態が含む矛盾を全て包み込む理想のフランス芸術をうたった標語であり、ナショナリスティックである一方全人類的な、また世俗とカトリックの同居する性格を持つ。これは、シャルル・ケックランをテーマとする本研究においても基礎となる重要な概念であり、この研究結果によって、ケックランの《ジャングル・ブック》を文明論的に分析する、という新たな視点が可能となった。別途進めている音楽語法からの分析に、歴史・宗教・文学・政治を絡めて、総合的にこの作品を評価したい。 9月〜10月に行なったパリにおける資料収集では、ケックランの自筆資料や、パリ音楽院の古文書等を参照した。《ジャングル・ブック》のスケッチからは、この作品の初期構想が明らかになり、ケックランが「森」という題材にとりわけ惹かれていたこと、当初は4部構成の交響曲を考えていたことなどが分かった。これにより、「森」と管弦楽法をキーワードとした、《ジャングル・ブック》の文明論的分析を試みており、成果は2005年の日本音楽学会全国大会で発表予定である。 一方、ケクランの著述作品からは、彼がフランス音楽の伝統について深く考え、現在のフランスの「音楽史」にも大きな影響を与えていることが分かった。アルス・ガリカとのつながりも確かに感じられた。この研究の途中報告は、昨年12月の日本音楽学会関東支部例会で行なった。 こうした個々の結果を総合して、博士論文の全体の構成を組み立てることができた。
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Research Products
(1 results)