2004 Fiscal Year Annual Research Report
日本のトーキー映画の音楽--メディア、言説、視聴覚体験の相互作用
Project/Area Number |
04J04252
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Research Institution | International Research Center for Japanese Studies |
Principal Investigator |
今田 健太郎 国際日本文化研究センター, 研究部, 特別研究員(PD)
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Keywords | トーキー / 日本音楽史 / メディア史 |
Research Abstract |
本研究は、日本における無声映画からトーキー映画への移行期(1920年代〜50年頃)に焦点をあて、トーキー映画体験を通じた知のありようを探ろうとするものである。 調査を進めるにしたがって、日本近代のトーキー映画における音楽のあり方やその評価には、大きく分けて二つの方向があると仮定できるように思えてきた。ひとつは欧米のやり方をできるだけそのまま持ち込んで、その合理性、近代性、正統性を主張するもの。このことは、トーキー映画や映画音楽に関わる日本語の出版物のほとんどが、欧米の著作の翻訳、あるいは欧米の技術や事情を紹介するものであることから、見いだせるだろう。また、映画雑誌の刊行によってかたちづくられた論壇において、個人による言論という手段が用いられているのも、こうした志向の特徴として挙げることができる。 その一方で、近世より続く芸能興行の慣習の延長線上にあるものがある。とりわけ映画館の前身となった芝居や寄席においては、音や音楽がさまざまに用いられ、興行に欠かせないものだった。これらは関係者たちの実践のなかで暗黙のうちに共有されたルーティンであり、特定の個人や言論に帰するものではなく、もとより理論になじむものではない(風俗としてとらえられる場合が多い)。近代化を目指す前者によって、「前近代的」だとしばしば非難の的となるものだが、明に暗に、日本のトーキー映画を方向づけてきたように思われる。 本研究では、すでに一定の調査と評価がなされている前者にくらべ、あまり省みられていない後者に比重をかけて、芸能興行の慣習を参照しながらその実態を明らかにするとともに再検討を試みたい。
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