2005 Fiscal Year Annual Research Report
日本のトーキー映画の音楽--メディア、言説、視聴覚体験の相互作用
Project/Area Number |
04J04252
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Research Institution | International Research Center for Japanese Studies |
Principal Investigator |
今田 健太郎 国際日本文化研究センター, 研究部, 特別研究員(PD)
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Keywords | トーキー / 無声映画 / 演奏実践 / 芸能史 / 日本音楽史 / メディア史 |
Research Abstract |
本研究は、日本における無声映画からトーキー映画への移行期に焦点をあて、トーキー映画体験を通じた知のありようを探ろうとするものである。昨年度では、日本のトーキー映画における音楽のあり方やその評価には、大きく分けて欧米のやり方を導入しようするものと、近世から無声映画を経て続く芸能興行の慣習の延長にあるものがあるということを指摘し、本研究では後者に重点をおいて進めることを表明した。 本年度はそうした方向性をふまえたうえで、具体的な研究成果を模索した。たとえば、京都市立芸術大学日本伝統音楽研究センターのプロジェクト研究「近代日本における音楽・芸能の再検討」にて、三度の口頭発表をおこない、映画の上映・興行の形態が近世や近代の芸能とどのような面でどのように関わっているのかについて、議論を重ねている。そこで明らかになりつつあるのは、映画という視聴覚形式が先行する芸能(たとえば絵解きや人形浄瑠璃など)受け継いでいること、また語りと音楽が果たす役割はその延長の上に成立しつつ、映画独自の効果をもちえるようになったこと、そしてこうした興行慣習の変化は、劇場の構造や都市の形成にも連動していることなどである。 もうひとつの具体的な調査活動として、無声映画の伴奏音楽を実際に演奏する機会を得たことが挙げられる。これは情報提供者の依頼によるものであるが、研究成果を公表するというのではなく、できるだけ興行のルーティンを再現するという実験的な性格を持たせた。四度の興行をおこなううえで明らかになったのは、書き残された資料(たとえば楽譜、キッカケ帳など)には指示のない、所与のものとして知識(たとえば演奏のキッカケやテンポの決定)が存在することである。これらは演奏に不可欠な情報でありながら指示がなく、おそらく演奏者に共有されていたものだと思われるが、こうした知識の共有のありようは興行慣習と密に関わっていたと推測される。
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