2005 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
04J04718
|
Research Institution | National Museum of Ethnology |
Principal Investigator |
津曲 真一 国立民族学博物館, 民族文化研究部, 特別研究員(PD)
|
Keywords | 大究竟思想 / ニンマ派 / 宗教学 / チベット |
Research Abstract |
本年度は大究竟思想と中国禅との関係について研究を行った。先ず初期大究竟思想の形而上学における中国禅の影響については、ニンマ派の論書『禅定灯明』に中国の禅師の名が挙げられていること、また南宗禅系の教義である「体・用」、及び、法に聖・俗の二側面を設ける思想がそれぞれ、大究竟思想に見られる真理の三位相、及び清浄・不浄の顕現の教法と類似しており、また真理位相が自ずから生まれる(自生)という思想と類似したものが南宗禅にも見られること等から、両者の思想上の親和性は明かであり、大究竟思想がその初期段階において南宗禅からの影響を受けたことは疑い得ないと思われる。 しかし従来、大究竟思想と中国禅の共通性の中心が頓悟・無努力を説くことにあるとされてきた点に就いては、大究竟思想中期の代表的思想家であるロンチェン・ラプジャムの著作と資料として検討した所、幾つかの重要な変更が必要であるとの知見を得た。彼の著作においては、頓悟は真理位相と世俗位相が本来一であることを体得した者、乃至「上の機根」と呼ばれる優れた能力を予め持つとされる者のみにおいて可能とされており(『大車』等)、頓悟・無努力は特殊なものとして説かれている。また大究竟思想が「基・道・果」という修道段階を欠いていることによって、同思想を中国禅系であるとする見解が従来の研究に見られるが、基・道・果は『心性自己解脱論』・『真如の宝蔵』等においては明らかに認められるものである。 以上の研究から、ニンマ派の大究竟思想においては、その初期段階において南宗禅系の教義上の影響を受けたことは明かであるが、その初期と中期とでは幾つかの相違があり、とりわけ中期に於けるその体系化の過程においては、中国禅とは区別された独自の思想的発展を果たそうとする傾向が見られるとの知見を得た。
|
Research Products
(1 results)