2005 Fiscal Year Annual Research Report
イギリス・メディア教育学における思想と実践の発展史研究
Project/Area Number |
04J05550
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
上杉 嘉見 名古屋大学, 大学院・教育発達科学研究科, 特別研究員PD
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Keywords | メディア教育 / メディア・リテラシー / 英語科 / 批判的分析 / イギリス / カナダ・オンタリオ州 |
Research Abstract |
本年度の主要な研究実績としては,カナダ・オンタリオ州のメディア教育の歴史的な展開とその問題点を分析した博士学位論文「カナダ・オンタリオ州におけるメディア・リテラシー教育の研究-メディア社会と学校教育の課題」を完成し,学位を取得したことが挙げられる。 その他,現在のイギリスとオンタリオ州におけるメディア教育に対する考え方と取り組みの比較検討を進めてきた。 具体的には,大学の研究者や政府関係機関が理論と実践を牽引してきたイギリスについては,主要な論者の考え方の対立に注目した。この対立は,(1)メディア教育の目的を社会に対する批判的認識の獲得と,メディアと関わる主体的な態度の育成のどちらに据えるべきか,(2)映像制作活動を授業の中で最重視するか,社会批判性を身につけるための一手段として位置づけるか,という2点に見られた。加えて一連の議論からは,英国映画インスティテュートのイニシアチブによって,メディア教育が映像産業の振興という国家目標に絡め取られている様子もうかがえた。このようにイギリスでは,本来備わっていた批判性を後退させる言説が力を持ちつつあることが明らかにされた。 他方,学校の教師による推進を特徴とするオンタリオ州は,最近になって研究機関との連携に着手し,実践の発展を図ろうとしている。2005年6月には,メディア・リテラシー協会とトロント大学オンタリオ教育学研究所のメディア・文化教育研究センターの合同ミーティングに参加し,メンバーへのインタビューをおこなった。そこから明らかになったのは,(1)メディア教育が政治的な環境の変化にも耐えられるだけの基盤を獲得するには研究者との連携が必要,(2)政治・経済的な観点からのメディア分析の実践を深化させるためには社会学者との緊密な関係が不可欠,という戦略であった。 以上の研究成果の一部は,日本カリキュラム学会第16回大会(東京学芸大学,2005年6月)にて発表済みである。
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