2004 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
04J05564
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
川名 雄一郎 名古屋大学, 大学院・経済学研究科, 特別研究員
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Keywords | J・S・ミル / 古典的功利主義 / 古典派経済学 / 神学的功利主義 |
Research Abstract |
本年度は、功利主義をめぐる1830年代イギリスの思想状況について研究をすすめた。具体的にはJ・ベンサムからJ・S・ミルにいたる古典的功利主義の流れだけでなく、神学的功利主義についても検討を行った。ペイリーをはじめとする神学的功利主義は現在ではそれほど重視されていないが、当時にあってはベンサムらの古典的功利主義の流れよりも影響力を持っていた。実際に当時の多くの功利主義批判は神学的功利主義に向けられており、このことを考慮しないと、功利主義批判を正確に理解することが困難である。 このことに留意しつつ、当時の功利主義をめぐる知的状況を、古典的功利主義、神学的功利主義、功利主義批判(直観主義、コモンセンス学派など)の間の複雑な関係としてとらえることによって、個々の議論を歴史的文脈の中で理解することができるようになった。このような歴史的文脈の理解を手がかりとして、J・S・ミルの1830年代における功利主義論が、これまでのようにベンサムとの関係でのみ理解されうるような単純なものではなく、功利主義批判への再批判と譲歩、さらに神学的功利主義への批判(神学との結びつき)と共鳴(既存道徳の位置づけ)などの多様な意図に基づいていたことが明らかになった。特に、当時のJ・S・ミルの議論を理解する上で神学的功利主義者であるジョン・オースティンとの関係に着目した。 またJ・S・ミルの経済学に関しても研究をおこなった。その際にもJ・S・ミルの議論を19世紀のイギリスにおける思想状況の中で理解することを試みた。特にリカードを比較の対象とし、それぞれの思想家が何を問題としていたか、その設定した課題に対してどのような解答を提示したかを中心として考察した。 なお、ロンドン大学ユニヴァシティ・カレッジ(UCL)に滞在して研究を行った。UCLは現在功利主義研究の世界的センターとなっており、同大学ベンサム・プロジェクト・ダイレクターであるフィリップ・スコフィールド教授から研究指導を受けた。
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Research Products
(2 results)