2004 Fiscal Year Annual Research Report
リン酸欠乏が気孔閉鎖を誘発するメカニズムの解析および気孔-光合成関係の再検証
Project/Area Number |
04J05835
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
関谷 信人 名古屋大学, 大学院・生命農学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 気孔 / リン / 光合成 / 蒸散 / サーモグラフィー / 炭素安定同位体 / 乾燥ストレス / 水利用効率 |
Research Abstract |
植物はCO_2と水を獲得し、光エネルギーを利用して炭水化物を生産する。葉の表面には気孔と呼ばれるミクロの孔が散在し、気孔が開くと濃度勾配に沿ってCO_2が葉内へ流入する。また、気孔が開くと体内の水分が大気中へ蒸発して陰圧が発生し、これが根に伝わって土壌水分が体内へ引き込まれる。したがって、気孔運動は生命活動の最も重要なプロセスに影響を与える因子であり、この現象を理解することは意義が大きい。 気孔運動が、様々な環境因子に影響を受けることは知られている。本研究はリン栄養に着目するが、リン栄養に限らず無機養分と気孔運動の関係を研究した例は少なく、統一された見解はない。しかし私達は、リン欠乏の植物が気孔を閉鎖する可能性を見出しており、本研究ではその現象をさらに検証するとともにメカニズムも解明しようとした。 生きた植物で気孔運動を直接観察するのは難しいため、葉の一部にマニキュアを塗布して表面のレプリカを作製し、それを顕微鏡で観察した。その結果、リン欠乏の植物では孔の面積が有意に減少していた。次に、サーモグラフィーで葉の温度を測定した。気孔が開いて水分が蒸発すると葉の温度が低下するため、葉の温度を測定すれば葉全体で気孔の開き具合を推定できる。その結果、リン欠乏の植物では葉の温度が高かった。以上から、リン欠乏が気孔閉鎖を誘発することが証明された。 また葉内CO_2濃度は、リン欠乏とリン充足の植物で有意差はなかった。葉内CO_2濃度の変動の履歴を示す葉の^<13>C/^<12>C比も両者に有意差がなかったことから、リン栄養に拘わらず葉内CO_2濃度は一定になると推測できた。 次に、CO_2から炭水化物が生成される代謝経路におけるCO_2固定活性を比較すると、リン欠乏で固定活性が低かった。 以上から、気孔は葉内CO_2濃度を維持するように開閉するが、リン欠乏の植物はCO_2固定活性が低いために葉内CO_2濃度があまり変化せず、気孔もあまり開かないというモデルを導き出した。
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