| Research Abstract |
1.はじめに
現在,医療分野では血液接触医療用器具の抗血栓性,機械的強度,化学的安定性の向上が望まれている.一方,磁気記録ディスクの保護膜等に応用されているアモルファス窒化炭素(a-CN)膜は,生体分子と類似の元素で構成されていることから,生体親和性を有することが期待される.そこで本研究では,生体内で抗血液凝固作用を発揮する一酸化窒素(NO)をa-CN膜に貯蔵し,機械的強度,化学的安定性を併有する抗血栓性材料の開発を目指す.
2.実験方法
a-CN膜は,アークイオンプレーティングによりポリマー基板上等に作製した.成膜中のチャンバー内圧力,原料分圧等のパラメータを制御することにより,NOを貯蔵可能であるNH基の膜中含有量の増加を試みた.a-CN膜中の化学結合状態は,フーリエ変換赤外分光法,X線光電子分光法,UVラマン分光法,固体核磁気共鳴法等の分光学的手法により評価した.a-CN膜へのNOの貯蔵は,以下に示す四種類の低温プロセスを用いた化学修飾法により試みた.
(1)減圧下でa-CN膜に真空紫外光(VUV)を照射してa-CN膜中のNH基をNOH基に変換後,亜硝酸ナトリウム,塩酸混合溶液中にa-CN膜を浸漬した.
(2)減圧下でa-CN膜にVUVを照射してa-CN膜中のNH基をNOH基に変換後,ナトリウムメトキシド,亜硝酸イソアミン混合溶液中にa-CN膜を浸漬した.
(3)大気雰囲気でa-CN膜にVUVを照射した.
(4)a-CN膜を浸漬したナトリウムメトキシド溶液にNOを所定時間バブリングした.
3.結果および考察
各成膜パラメータを制御することにより,a-CN膜中のNH基を増加することができた.また,各化学修飾法によりa-CN膜へのNO貯蔵を試みた結果,化学修飾法(1),(3)を施したa-CN膜にはNOが貯蔵された可能性が示唆された.
4.まとめ
NH基を豊富に含有するa-CN膜をアークイオンプレーティングにより作製した.さらに,化学修飾法によるa-CN膜へのNO貯蔵法を開発した.今後,NO貯蔵a-CN膜の機械的強度の評価,生体外,生体内におけるNO貯蔵a-CN膜の抗血液凝固作用の評価を行う予定である.
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