Research Abstract |
本年度は,日本の農業関連企業によって対日輸出産地の形成が見られた事例として,(1)食品企業による青果物の海外調達,(2)産地問屋による工芸作物の海外調達,という2事例について検討を行った。まず(1)に関しては,1970年代から海外調達を進めてきたカゴメ株式会社に着目し,青果物の対日輸出産地の形成について実証分析を試みた。カゴメは,1970年代までは台湾を対日輸出産地と位置づけていたが,1980年代以降は調達地域を変化させ,中国沿岸部を調達先として位置づけるようになった。その産地形成方法を見ると,調達先として現地企業(屯河社)と提携し,屯河社が契約する農家に対して技術指導を行い,カゴメ向けの原料を栽培させていることが判明した。つまりカゴメは,直接投資によって自ら産地を形成するのではなく,既存の現地企業と提携を結ぶことによって,対日輸出産地を育成しているといえる。一方(2)に関しては,1980年代から工芸作物の対日輸出産地を形成してきた畳表産地問屋のトクラ株式会社を取り上げ,工芸作物の対日輸出産地の形成を検証した。トクラは2005年現在,輸入畳表の90%以上を中国から調達している。なかでも,中国沿岸部に位置する浙江省寧波市に,日本向けい草栽培面積の80%以上を配置しており,対日輸出産地が特定地域に集中していることが判明した。その産地形成方法を見ると,現地企業35社と提携を行っており,直接投資による産地形成は確認できない。トクラがこのような戦略をとるのは,中国では価格変動や天候不順により産地がダメージを受けることが多々あるため,直接投資によって産地を抱え込むことはリスクが大きく,調達提携によるリスク回避が必要であることによる。 以上の2事例から,日本の農業関連企業による対日輸出産地の形成メカニズムとして,中国沿岸部への産地集約化,調達提携による産地確保,といった共通性を見いだすことができた。
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