2004 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
04J07652
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Research Institution | Tohoku University |
Research Fellow |
大塚 良貴 東北大学, 大学院・文学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | リクール / ハイデガー / 解釈学 / 歴史 / 他者 / 死 / 歴史記述 / 脱構築 |
Research Abstract |
本年度の研究によって、リクールがハイデガーの哲学をどのように読み解き、自らの解釈学思想の中に組み入れていったのかが探究された。『時間と物語』と『記憶・歴史・忘却』においてリクールは、あくまで「私自身の死」にこだわるハイデガーの『存在と時間』を批判しつつ、私の死の可能性が「歴史における他者の死」の方から解釈可能であることを指摘する。本研究は、このリクールの指摘が次の二つの哲学的洞察を含んでいることを明らかにした。 それは第一に、ハイデガーの「本来的・非本来的」という図式をいわば「脱構築」することを要求する。「脱構築」という言葉こそ直接用いてはいないものの、リクールは、「私自身の死=本来的」「他者の死=非本来的」というハイデガーの二項対立的図式が維持不可能であることを示し、他者の死も私自身の死の可能性として引きつけられうることを明らかにしている。 第二に、他者の死と歴史記述との密接な結びつきを明らかにすることによって、リクールは、哲学と歴史学との対話可能性を模索しているといえる。伝統的にみて、人の死は宗教や哲学が独占的に扱う問題系であった。しかしリクールは、私の死の可能性と他者の死が「混交・汚染」し合っており、そうした他者の死が歴史記述によって提供され、歴史を物語りその歴史物語りを読むことによってはじめて他者の死が認識されることを指摘することで、私自身の死という哲学的(実存的)問題と、他者の死を開示する歴史記述とが不可分であることを示すのである。 しかしこうしたリクールの思想は、他者の死を私の死の方へと引き込んでいる点で「自我論的」であり、それによって他者の死の他者性をとりのがしてしまっている。本研究では、上記二点の哲学的可能性を指摘すると共に、デリダの後期思想にもとづいてその限界を併せて指摘した。なお本年度の研究の主要な論点は、雑誌『東北哲学会年報』(21号)に掲載予定である。
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Research Products
(1 results)