2004 Fiscal Year Annual Research Report
大正期における「精神」概念をめぐる相剋-第一次大本教事件を中心として-
Project/Area Number |
04J07899
|
Research Institution | Osaka University |
Research Fellow |
兵頭 晶子 大阪大学, 大学院・文学研究科, 特別研究員(DC2)
|
Keywords | 思想史 / 精神医学 / 精神療法 / 潜在意識 / 心理 / 宗教 |
Research Abstract |
精神が脳髄という物質を離れては存在しないものと再定義きれた時、物質には回収されない形でspiritを主張しようとする人々も、もはやその実在の科学的な証明を迫られていく,そうした中で、霊魂・精神・心を目で見て実験することができる手段とされたのが催眠術であった。催眠術によって見出された従来の意識とは異なる何か、それを霊術家・桑原俊郎は「精神」と呼び、心理学による二重人格という説明を批判する。この問題はやがて、意識を普通意識と潜在意識に二分し、後者が催眠術の働きかける対象であると説明されるようになる。この潜在意識という発想を取り入れたキリスト教系霊術家・高橋卯三郎は、神の本質を、個々人の潜在意識の源泉たる「一大潜在意識」てあるとした。ここで文字通りspiritは潜在意識の名において取り戻されたのであり、それは潜在意識をめぐる新たな学説や、霊術=民間精神療法の実践を通じてたえず再提示されていくのである。 一方、心理学や精神病学においても、催眠術やヒステリーの研究による潜在意識の発見を経て、脳の障害・疾病に限定された精神病概念が批判され、独自の説明大系である「心理」が模索されるようになった。そこでは、もはや脳髄ではなく性格や人格の異常が語り出される。潜在意識という水路を経て、医学が心理学の領分にまで侵入して診察を始める道=psychoが拓かれたのである。『変態心理』と大本教の対立、および第一次大本教事件時の精神鑑定は、こうしたpsychoとspiritの相剋に他ならない。そこでは、憑霊の不可思議は潜在意識へと回収されるが、その論理は、不敬的言辞も潜在意識活動の産物て本人格の責任ではないと王仁三郎を免責する。しかし同時に、彼は憑霊を起こしやすい「性格異常者」であるとされ、大本教が持つ社会的批判性も、個人の心の異常に回収されることで霧散させられてしまう。新たな「心理」の語りは、こうした政治性を孕んでいたのである。
|
Research Products
(1 results)