2005 Fiscal Year Annual Research Report
ブラジリア連邦区形成の歴史と現状にみる社会階層の分断と人種民主主義
Project/Area Number |
04J08309
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
奥田 若菜 大阪大学, 人間科学研究科, 特別研究員(DC1)
|
Keywords | ブラジル / ブラジリア連邦区 / 貧困 / インフォーマルセクター / 経済格差 / 格差日常化の論理 / 都市下層民 |
Research Abstract |
経済格差が著しいブラジル社会において、主に都市下層民がどのように格差を日常として受容しているかに注目する。ブラジルにおいて貧困層と位置づけられる人びとは5500万人で、そのうちの2400万人が極貧の状態におかれている。この状況はここ数十年、貧困層と富裕層の割合は改善されておらず、10%の富裕層が所得全体の50%を得ている。社会的に下層に位置するのは絶対的貧困層だけではない。インフォーマルセクターに従事する労働者は、最低賃金よりもはるかに多い月給を得ている者もいるが、多くは正規雇用の職につく機会を持たない。しかし社会階層や社会的に同じカテゴリーに属すると考える集団の意識が形成されにくく、改善を促す運動に発展していない。これまでの研究で指摘されているように、「不平等」という言葉が使われることによって貧困が匿名化され、それぞれの階層が格差や貧困を日常の外にあるものとして考えるようになるからである。格差はいかに日常化されるのか。この論理の解明は、格差社会になりつつあると論じられている日本社会の問題について論じる際にも有益である。貧富の差への注意を麻痺させる要素とは何か。 彼らの「格差日常化の論理」には、「神」「金持ち」「教会」「労働」「より貧しい人びと」などの要素が現状の肯定のために機能している。特記すべき点は、貧困の捉え方である。どのような状況を貧困としてイメージするかは各階層によって違う。下流階層では貧困は相対的にイメージされるのに対して、中上流階層では貧困は絶対的にイメージされている。例えば、中上流階層にとって、子どもにおもちゃを買い与えられる家庭は貧困とはいえない。その日の食料に困っていない限り「それほど貧しくない」と捉える。このような貧困のイメージは、中上流階層の自己肯定に役立っていると考えられる。つまり、著しい格差がある社会の中で優位な立場にいることの心理的負担を減らす効果がある。
|
Research Products
(2 results)