2004 Fiscal Year Annual Research Report
多文化主義の可能性と限界-オランダ・モデルにおけるイスラムとの共生の障壁
Project/Area Number |
04J09628
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
久保 幸恵 一橋大学, 大学院・社会学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 多元主義 / 柱状化 / オランダ / ユダヤ教徒 / 移民 / 多文化主義 / 寛容 / ムスリム |
Research Abstract |
オランダで、ムスリム組織が公的な承認を得られた背景には、柱状化の歴史のほかにも、ユダヤ教徒の先例があったことが理由として挙げられることが多い。しがし柱状化を論じた文献やメディアにおいて、これまでに「ユダヤ教の柱」が議論されたことはない。本年度においては、その理由を明らかにすることを目的に研究を行った。日本では全く資料が存在していないので、本年度の1・2月にかけてオランダに滞在し、インタビュー調査や文献調査に基づいて検討を行った。同時に現地においては、アムステルダム大学付属、「移民・エスニシティ研究所」に席をおき、ユダヤ問題の専門家からのアドバイスを受けた。 ムスリムの場合と同じく、ユダヤ教徒においても、ユダヤ小学校や、監獄や軍隊に聖職者を派遣する組織などは政府からの公的な承認を受けている。これらの承認が行われたのは包括的な柱状化が醸成されつつあった、20世紀初頭にまで遡る。しかしユダヤ教徒の柱が議論されたことが無い主な理由として、次の2つが挙げられる。第一に独自の柱を利用せずとも、既存の柱に基づいた組織を通じて、政治的・社会的な影響力を及ぼすことができるエリート層が存在していたこと。第二に、柱状化という現象を社会学的に説明しようとする議論が始まった戦後には、ナチス・ドイツのユダヤ人大量虐殺の結果として、ユダヤ教徒の人数が戦前の5分の1にまで減少していたこと。それらの結果として、ユダヤ教徒の柱状化は、不完全な、或いは小規模なものに留まった。従って、ユダヤ教徒の場合においては、柱状化の議論の俎上に上ることはなくとも、政府から承認を受けた組織が今日まで存続しているのである。 この研究成果を、ムスリムの柱状化の議論と比較・検討し、論文を発表する予定である。
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